イタリアの知の巨人ウンベルト・エーコさんの処女作『薔薇の名前』は、全世界で5500万部売れた超ベストセラー。映画化もされたミステリ小説の傑作です。
『薔薇の名前』書籍情報
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タイトル:薔薇の名前
作 者:ウンベルト・エーコ(Umberto Eco)
小説家、エッセイスト、文芸評論家、哲学者、記号学者。イタリア出身。1932年〜2016年。
イタリア共和国功労勲章受章者。
簡単なあらすじ
年老いた修道士アドソが書き残した連続殺人事件についての手記を、著者のウンベルト・エーコさんが紹介する形式になっている。
手記の舞台は14世紀のイタリア北部のカトリック修道院。そこで事件が起きる。
当時、見習修道士の青年だったアドソは、師匠の修道士ウィリアムとの二人旅で、ちょうど修道院を訪れていた。
二人は僧院長より調査を依頼を受けて、連続殺人事件の謎に迫っていく。
読書難易度:
読書難易度高めですが、エーコさんの小説『フーコーの振り子』よりは、読者に優しい印象でした。
エーコさんの知識も含めて楽しめる方ならば、極上の知的なミステリといえるでしょう。しかし描写も長いが、キリスト教関連のウンチク話がやったらクドイので、そのテの話に興味がない方は、読むのが苦行になるかもです。
そもそも日本ではキリスト教があまり浸透していないせいで、とっつきにくさを感じるかもしれません。また、そっち方面の知識の乏しさから、理解が難しいと感じるかもしれません。
あと文章量は多いのに、ストーリーの展開が遅いので、まどろっこしく感じるかもしれません、特に上巻。
でも挫折するのはもったいない本だと思う。
感想・レビュー
随分前に、ショーン・コネリーさんとクリスチャン・スレーターさんが出演した映画版を観たら面白かったので、小説版🌹も読んでみたくなって手にした本。
まず冒頭の一文が良かった。
初めに言葉があった。言葉は神とともにあり、言葉は神であった。
引用:薔薇の名前・プロローグ P22(ウンベルト・エーコ)
深い!記号学者でなければ、なかなか思いつかないような文章だ。『薔薇の名前』というタイトルもまた、記号学者らしくて良かった。
いやぁ、素晴らしいな✨
笑いどころがあった
ウィリアムとアドソは、『シャーロック・ホームズ』のホームズとワトソンだよね、ってのは誰でも連想するだろう。二人のやり取りが微笑ましくて時々クスッとくるものがあった。
例えば「おまえの南瓜頭🎃にもう少し塩味を〜」とか。
頭の活性化にはブドウ糖じゃなかったっけ?弟子のアドソ君を、斜め上に導きたい感じ?
ホルヘが書物のページを食べるシーンがあるんですよ。シリアスなシーンなんですけどね、モデルがモデルだけに…、ウケる(笑)。確かにボルヘスさんって本が大好物でしたけど、食わせちまったんかい😆
それと、日本人なら吹き出してしまう笑撃的シーンがある。
本当は残酷シーンなんですけどね、横溝正史さんの『犬神家の一族』みたいな状況になっているんですよ。
ほら、斧琴菊(ヨキ・コト・キク)の、斧(ヨキ)に見立てたアレ。湖に頭から突き刺さっていたセンセーショナルなアイツ。
そう、佐清(スケキヨ)に成りすました静馬(シズマ)。
アイツを思い出してツボってしまった。日本人のお楽しみポイントといっても差し支えないと思う(笑)。まぁ読んでみて😆
この本を読むコツ
実は、本筋のストーリーだけを追って、キリスト教関連のウンチクについては雰囲気だけ楽しむスタンスでざっくり読むなら、比較的楽に読める作品だと思う。単なるミステリとしてのみ読むなら、スケールの大きな話でもないので。
予習として映画版を観ておくテもある。
完読するなら
物語の背景やミステリーのトリックなども含めて、この小説を深く理解して、物語の世界をガッツリ堪能したい方は、予備知識として
- 旧約聖書と新約聖書(特にヨハネの黙示録)。
- キリスト教史(特に13世紀〜アヴィニョン捕囚あたり)やキリスト教諸派(特にベネディクト会とフランチェスコ会)、異端について。
- トマス・アクィナスさん、アウグスティヌスさん、アリストテレスさんあたりの思想について。
- マルティン・ルターさんの宗教改革以前の、教会を中心とした人間社会の秩序や倫理について。
- ウィリアムのオッカムさんとスコラ哲学、ロジャー・ベーコンさん。小説家ホルヘ・ルイス・ボルヘスさんについて。
- エーコさんの記号論について。
などなどをざっくりとでも知っていると、思いっきり楽しめるんだろうと思う。そこまで勉強熱心なファンって、どれだけいるんだろうねと思うけど😅
しかしこの作品は、ユーモアとサスペンス、中世イタリアの荘厳な雰囲気、小難しいウンチク、ロマンスなどアレコレ濃厚に詰め込まれているので、どこに注目して楽しむかによって、読書難易度は変わるかもしれんね。
物語と知識と見解
エーコさんの知識を惜しみなく披露してくれたことは素晴らしいと思う。でも文章量を半分に減らしても良さげな内容じゃないかなぁ(笑)。
なんせ本筋が全体の2割ほどしかない印象だったのよね。さすがにこれじゃ「物語の主軸よりも読んで欲しいものがあったのか?」「それは自身の豊富な知識と見解か?」という疑問を感じてしまう。
要するに、物語の中にウンチクが溶け込んでいない気が…
それでも面白かったし、ウンチクは興味深かった。ウンチクには私なりに思ったことがあるけれど、本筋の物語の感想から剥離し過ぎている気がするので、とりあえずこれだけ呟いておこう。
まとめ
今回は、世界的に大ヒットしたウンベルト・エーコさんの代表作『薔薇の名前』の感想でした。
文章が長すぎてまどろっこしさはあったけれど、物語も面白かったし、ウンチクも読み応えがあったので、読み物としてなかなか贅沢な内容だと思う。
自分なりに知の冒険ができたし、小説としてというよりも、読み物としてこの本が好きだと思った。
小難しいだけじゃなくて、色々な要素が詰め込まれた名作でした。あなたももしよかったら読んでみてね。
エーコさんの記号論について知りたい方ならコレ。
こちらはエーコさんの小説『フーコーの振り子』の感想を記事にしています。陰謀論がいかに作られ、人々がそれに翻弄されていくのかを描いた知的興奮小説でした。よかったら合わせて読んでみてくださいね😊