ウンベルト・エーコさんの『フーコーの振り子』は、陰謀論がいかに作られ、人々がそれに翻弄されていくのかを物語にした、二十世紀最高の知的興奮小説です。
『フーコーの振り子』書籍情報
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タイトル:フーコーの振り子
作 者:ウンベルト・エーコ(Umberto Eco)
小説家、エッセイスト、文芸評論家、哲学者、記号学者。イタリア出身。1932年〜2016年。
イタリア共和国功労勲章受章者。
簡単なあらすじ
1970〜80年代のイタリア、フランス、南米が舞台。
中小出版者の編集者や協力者が、陰謀説をでっちあげようと思い立ち、それにのめり込んでいく。やがて彼らの遊びは、危険なものになっていく。
読書難易度:
読書難易度高いです。
物語の進行が遅くてまどろっこしいので、読み続けるのが苦行になるかもしれません。
また、エーコさんの大ヒット小説『薔薇の名前』よりも知の情報量が多い。
西洋の歴史や文化や宗教はもとより、テンプル騎士団やサン・ジェルマン伯爵、グノーシスやカバラその他、西洋の妖しげな香りがする方面の予備知識が乏しいとポカーンとなるかもしれません。
面白い小説なんだけどね。
感想・レビュー
読了には忍耐が必要という意味で、なかなか読み応えのある作品です😅
【POINT1】とんでもない知識量
さすがは知の巨人だった。「俺様の知識量どやぁ!」な香りがしなくもなかった(笑)。
でもこれ程の博識を誇るには、天才といえども相当勉強してきたハズなので、その努力は称賛したい👏
きっと楽しみながら執筆し、物語形式で自分の意見も盛り込みながら、惜しみなく知識を披露してくれたんじゃないでしょうか。エーコさん、ありがとう!
物語ではテンプル騎士団、錬金術、ゴーレム、魔術など、西洋オカルト好きがワクワクしそうな用語がわんさか出てくる。
なのでそっち系がお好きな方なら、案外読みやすくて、夢中になれる本かもしれませんね。
ジャンル的には辛うじてミステリー、かなぁ。
【POINT1】陰謀論
歴史を元に二次創作して辻褄を合わせしてみたら、そのネタが、創作者の元を離れてモンスターの如く一人歩きする。
そして真実と虚構、歴史と創作がこの世で反転した。
人は情報に翻弄され、狂気が生じ、悲劇が起きてしまうという壮大な物語だった。
陰謀をでっち上げた三人による、テンプル騎士団についての考察と陰謀計画の構築が主軸。その始まりと終わりにはフーコーの振り子があった。
フーコーの振り子
振り子を長時間振動させつづけると、その振動面が少しずつ回転する。例えば、北極点の真上に振り子を置いて振動させると、振り子は一定方向に振動を続けるが、振動面は24時間で地球の自転方向とは逆向きに360度回転する。
テンプル騎士団は、中世ヨーロッパの宗教的な騎士団の一つ。そういえば日本にも昔々、武装した寺院勢力の僧兵がいたね。
人間って神や仏を信じて、愛や慈悲を語ったその口で、誰かを生存させることを否定して、愛や慈悲を差し伸べたその手で、武器を持って誰かの生命を奪う生き物なんだねぇ。
テンプル騎士団
中世ヨーロッパで活躍した騎士修道会。正式名称は「キリストとソロモン神殿の貧しき戦友たち(羅: Pauperes commilitones Christi Templique Solomonici)」であり、日本語では「神殿騎士団」や「聖堂騎士団」などとも呼ばれる。
娯楽小説としてとても良くできている。傑作だと思う。
エーコさんって歴史を見て、或いは現実の世の中を見て、まことしやかに語られる陰謀論やオカルティズムを、高みの見物して笑っていたのかもしれない。
陰謀なんぞいくらでも作ることができる、都合の良い部分を抽出して、グロテスクにこじつけ歪ませればいいのだと。数字と言葉ってやつは、自在に組み合わせたり繋ぎ合わせることができるのだと。
私もそう思っていたので、めっちゃ共感できた。
うんざりするほど冗長的な部分を整理して文字量を半分に減らしたら、もっと多くの人に愛読された一冊じゃないかと思う。そこが実に惜しい。
巷の陰謀論どう思う?
この物語が、ちょうどリアルタイムで世間に蔓延している陰謀論に通じていたので、興味深く読めた😂
リアルでは大盛況だよね、巷の陰謀論。
陰謀論って、どのへんが《論》なのか不明なんだが?
ダダ漏れ情報は《陰謀》とは言えない気がするんだが?
世界の権力者達って、全世界の一般庶民に陰謀をダダ漏れにしちゃうマヌケなんすか?
とか素朴な疑問を感じるんだが(笑)。
ま、それは置いといて、巷の陰謀論者の噂話が100%デマだと決め付けているわけじゃないんだ。
勿論、丸っとフェイクニュースも多々有るだろう。
事実にデマを練り込んだ二次創作も多々有るだろう。
ひょっとしたらビンゴに近い憶測も有るかもしれないけどね。程度には思っている。
しかし私は一切支持しない。
それにしてもアレだね、陰謀論ってポストモダン的に解釈できるよね。
表面的なことがメインとなっていて、伝えたいこと「悪だ!陰謀だ!」はあれども、そこに核となるリアルが無かったりする。
デマを振りまく人間の心理を観察する事で、悪の必要性、善の必然性について、多少なりとも理解を深める事ができる気がする。
陰謀論者は、自分が批判している人々の言動の、動機や真意を自分の都合と感情と想像で被せているだけなんだと思う。
もっというとWhoに注目して、自動的に反応しているだけじゃないかな。
あの権力者、あの大富豪、あの人種が悪なんだ、彼等がこう言っているから、こうしたから陰謀だ!彼等の逆が正しいんだ!と。
そういう図式で、憶測や悪意を重ね続けて、他者を煽動しているように見える。
結局、「陰謀であって欲しい」という陰謀論信者の理想でしょう。
さらに末端の陰謀論信者達は、思考停止して自動コピペ。彼らは陰謀を知る者でありたいんだろうね。
思考パターンが偏り、視野が狭くなっている。世の中の情報を陰謀という偏狭した発想で捉えすぎている。
だから無意識的に踊らされている自分にいつまでたっても気付けない。そんな気がするよ。
人間って案外機械的なんだろうね。彼らはものすごく出来の悪いAIみたいだ。そういう機械的な判断の蓄積が結ぶ世界像によって、己の正義がグロテスクに歪んだものになっていくのにね。
そこから抜け出さない限り、永遠に間違い続けるんだろう。その歪んだ正義を維持して活動していくためには、妄想の中から一歩も出たくないし、嘘(陰謀)しか欲しくないでしょうから。
色んな意味でイージーだなと思う。吟味って大切ね。
かつての日本、飛鳥時代・奈良時代・平安時代あたりはガチで陰謀まみれだった。 人類って、陰謀好きなところは大昔から進歩していないんでしょうかね。
それにしても、ネットで見たり噂を聞いただけの陰謀論ネタに安易に食いつき、吟味もせずに信じきって右往左往する人が大勢いる世の中なんぞ考えもんだ。
人間は都合のいい情報を信じて、都合のいい存在に成っていくのかねぇ。
人類は、戦争、差別、迫害などを経験し学んできたものがある。これって人類が進歩していない部分の進歩を促す側面があったのではないか、とも思うんだ。
そういう意味では、陰謀論もまた人類に必要な現象なのかもねぇ。
まとめ
今回はウンベルト・エーコさんの『フーコーの振り子』の感想でした。
陰謀論をでっち上げて流布するのは良くないわね。嘘や欺瞞、フェイクが蔓延る現代では、リテラシーや知識、及び自分の意見や考えを持つって大切よ。ってお話だろうと解釈した。
読書難易度高めなので、万人向けの作品とは言い難い。
でも西洋のオカルティズムに興味をお持ちの方や、ダン・ブラウンさんの小説『ダ・ヴィンチ・コード』がお好きな人ならハマるんじゃないでしょうか。ちなみに私は『フーコーの振子』の方が断然面白い!と思いました。
まだ未読の方で、現代イタリアの知の巨人ウンベルト・エーコさんの小説に興味が湧いたなら、ぜひチャレンジしてみてくださいね。
ウンベルト・エーコさんの入門書ならコレ。
遺作となった最後の作品『ヌメロ・ゼロ』。陰謀論絡みの物語です。
文章量少なめですし、エーコさんの作品の中では難易度も低いので、初めてエーコさんの作品を読む方におすすめです。
こちらはエーコさんの小説『薔薇の名前』の感想を記事にしています。全世界で5500万部も売れた超ベストセラー。映画化もされたミステリ小説の名作です。よかったら合わせて読んでみてくださいね😊