【第一回・感想】サロメ/オスカー・ワイルド|世紀末文学の傑作の続きです。今回は、王女サロメと預言者ヨカナーンついて読み解いてみました。
王女と預言者
預言者ヨカナーン
神の選民・聖人・預言者のヨカナーン。この方も極端に濃いキャラでした(笑)。
上下の格に拘り神に選ばれし者として自らを高みに位置付け、乙女の告白を無碍につき返し、Whoに注目して差別的に罵り、母のことも罵り、己の信仰を押しつけて、貯水池に戻ってしまう。
モデルがヨハネなので大変失礼かもしれんけど、クズ(笑)
聖人も人間だ。どんな意味でも愛せない存在がいるならば、それもまた人というものだ。
けど聖人を自負する者ならば、相手の心に届く言葉で諭すべきじゃなかったかねぇ。
だって人の心を救済へと導くのが聖人の所以。断罪者や管理者と同義ではないのだ。
なのに、まだまだ人生これからの若者だったサロメの心を踏み潰した。その結果、サロメの壊れた心に狂気の焔が宿り、自分は首無しになった。
なんだかなー。
呪うヨカナーン
余談気味ですが、ヨカナーンは貯水池に戻る前に「呪われよ」とサロメに言い放っている。
自分は人を呪うような者ではございませんが、お前は誰か(多分、神)に呪われてしまえ or 呪われるぞ、という主張だね。
でもこれは自分が呪っているから、口から出た言葉に他ならず。また、自分に従わぬ者を恐怖で心理コントロールしよう、っていうカルト的な発想でもある。
このセリフを見た時、「人を呪わば穴二つ」という日本のことわざを思い出したよ。
このことわざの正しい意味については調べたことも無いが…
呪いの発動や代償というオカルトな話は置いといて、心だけにフォーカスすると、こう解釈できると思う。
他者を呪うには、
まず己が復讐心に囚われていなければならない。
復讐心を有するためには、
まず己が苦に囚われていなければならない。
結局、呪う者も呪われる者も不幸なのだ。
故に二つの穴が開く。
天罰が下るぞ!地獄に落とすぞ!とか言ったり、その意図で使う場合の因果応報も然りでしょう。
聖人でありたい者が、愛する神を汚すような言葉を使っちゃいけないなー。
ということで
ヨカナーンについては、高慢な気持ちが生じて墜落しちゃった胡散臭い宗教者、神の威を借るロクデナシ、という印象しか持てなかった。
幽閉されていた貯水池は、まるで奈落の底のよう。
サロメとヨカナーンって、会話がちょっと噛み合わなかった印象だ。オスカーさんは、意図的にそうしたのだろう。
この二人って本当はお互いに相手のことなんて見ていなくて、双方が偏った心で、見たいものを見合っているだけの投影の関係だったかもしれないね。
なお、ここに書いてあることは、聖書に登場する聖ヨハネのことではありません。 あくまでも『サロメ』に登場するヨカナーン限定の話ですよ、念のため。
王女サロメ
ファム・ファタール(魔性の女、運命の女)と評されるヒロインですね。
んー、サロメの心情が書かれていないので、解釈が分かれそうですね。
さて物語の中のサロメは、誰と話す時も駄々っ子炸裂だった。日頃からそれがまかり通ってきた子という設定だと思う。
金と権力は有るけど複雑な家庭、人間性がアレな両親と、チヤホヤしてくれるイエスマン達。義父すらサロメのご機嫌取り。
そんな残念な環境で暮らす王女様は、見目麗しく成長したが、健やかな知性と精神性が育たず、幼稚で我儘で短絡的。しかもタフで情熱的(笑)。
そんな子が色気付いたらタチが悪かった。
サロメがヨカナーンに興味を持ったきっかけは、義父が恐れ敬う男、母をディスる男への好奇心からでしょう。
しかし過激にディスるヨカナーンを見て、汚れに染まらぬ高潔な男に思えた。それがとても新鮮だったのだと思う。案外ディスっている内容なんてどうでもよかったんじゃないかな。
そして己の美貌も王女という権威も通用せず、求めても、褒めても、貶しても思い通りにならない男、自分が優位に立てない男を知ってがぜん燃え上り、狂気的な我執に囚われた。
そして出した答えは、
鳴かぬなら◯してしまえホトトギス。
男の首を所望したのは、義父への意趣返しできるし、きっと母も喜ぶ、私も嬉しいから一石三鳥!っていう考えも少しくらい有ったかもしれない。でもやっぱり頭の中の大部分を占める欲求は、
財より生首!鳥より生首!頑固一徹!生首一択!あぁ生首!
ってところだろう。しかしサロメが強調すべきは生首ではなかったはずなのだ。目的はキスでしょ、キス💋
災いを蒔き散らす自滅型の天然ファム・ファタール、かなぁ…。本人を含め3名の生命が散ってしまったので。
憐れなナラボート君
ところで、シリア人のナラボート君。
彼は、サロメがヨカナーンにキスするとごねたら、二人を会わせたことを悔やんでその場で自殺するわけだが…
なぜそこまで思い詰めるのか謎過ぎて「…へ?」ってなった(笑)。
いきなり目の前で自殺したのに、動じることもなく会話を続けるサロメとヨカナーンの神経も謎(笑)
モブキャラではないのに、命が軽すぎるやろ(笑)
あとがき
サロメは愛情に飢えて歪んでしまった子だと思うけど、ヨカナーンへの想いは愛とは言い難いな。でも恋の病いと言うには、メンタルがクレイジー過ぎる。
死してなお自分を見てくれぬ男ヨカナーンに語りかけるサロメ。
とにかくお口にキスという行為で頭がいっぱいになって、手段を選ばず、いや、選ぶための知能が足りなかったというべきか、生首を選択してしまった矛盾と愚かしさ。
でも、ようやく欲しいモノ(生首)を手に入れて、達成感と高揚感がMAXの中でキスするサロメ。
他者の目には、生かしておけないくらい禍々しい魔物のように映ったことだろう。
ところが、サロメのセリフには、どこかしら温もり無き寂しさがある。言葉の奥にある寂しさ、かなぁ。
憐れですらあった。
本当に欲しかったものは手に入らなかったんだろうね。
Amazon・Kindle〈英語・フランス語版〉『サロメ』の記事は、こちらでも紹介しています。