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【第一回・感想】雨月物語/上田秋成|白峯,菊花の約,浅茅が宿

6.09.2025

文学1

葉っぱの上に乗った丸い雨粒。

上田秋成さんの『雨月物語』は、9つの短編からなる怪異幻想系の短編小説集。三島由紀夫さんをはじめ、多くの文豪達に愛読されていたという日本の名作です。

『雨月物語』書籍情報


カテゴリとジャンル:〈文学1〉日本の文芸作品・短編小説・幻想・怪奇

タイトル:雨月物語
作  者:上田秋成(うえだあきなり)
江戸時代後期に活躍した天才。
読本作家、 国学者、歌人、俳人、茶人。大阪府出身。1734年〜1809年。


 簡単な内容紹介 

怪奇幻想物語の短編9編が収録されている読本(よみほん)、いわば『世にも奇妙な物語』の江戸時代版といった感じ。 内容は怨霊や生き霊、獣の化身や鬼などが登場する幻想的な怪異物語。
なお読本とは、中国小説の影響を受けた知的な伝奇小説のこと。ちなみに浮世草子は、大衆的で娯楽要素が強めの小説のこと。

読書難易度:
原文ですと漢文なのでちょっと難しいが、現代語訳なら読みやすいし簡単。
ただ、じっくり読んで解釈しようと思うと、物語の元ネタや時代背景や宗教思想、民間伝承などの予備知識も必要になるので、難しく感じるかもしれません。

感想・レビュー

そろそろ『雨月物語』の季節だろうか。
第一回目である今回は、『雨月物語』収録作品の中から『白峯』『菊花の約』『浅茅が宿』の感想です。

 白峯(しらみね) 

『源平盛衰記』の巻八・讃岐院事をベースにして、西行と崇徳院の怨霊が対峙して問答を重ねた物語になっている。二次創作ですね。

西行は白峯にある崇徳院の御陵を訪ね、和歌を詠み、お経をあげていると呼ぶ声が聞こえてきた。そこにいたのは魔王・崇徳院だった。そこで西行は崇徳院に成仏するようにと諌める物語。

作中では崇徳院が円位と呼びかけていますが、これは西行のこと。歌人としての雅号(←歌人名のこと)が西行で、僧名が円位だったんですな。
出家前は(俗名)佐藤義清→出家後は(歌人の)西行=(僧侶の)円位=(通称)西行法師。

言霊信仰が根強かった平安時代では、天才的な詩人や歌人は、天才的な言霊使いとも言えるでしょう。例えば西行さん、菅原道真さん、小野篁さんとか。
一つ残念に思ったのは、西行である必要が無さげな、力の無い言霊だった箇所があったこと。 要は薄っぺらい綺麗事みたいなセリフが有ったってことですけどね。
生前の野心や恨みや無念な想いを手放した時、心の平安が訪れるのだ。私はあなたにそれを伝え、あなたの御霊を平安に導きたい、って想いを西行は伝えたかったんでしょうけどね。

しかし、歴史は崇徳院の予言の如く進んでしまう。
崇徳院は、西行に対しては、ただ無念な想いを聴いて欲しかっただけだから、西行の前から穏やかに消えていった。
けれども崇徳院は、西行の言葉で成仏したわけではなく、ずっと怨霊であり続けたんだろうねぇ。そりゃあそうだろうね。

人は自ら鬼になる。
その鬼が腹を括って魔王・大怨霊の道を選んだというのなら、誰に何と言われようとも、迷いも後悔も無くその道を突き進むだろうよ。

崇徳院の背景

なお、天皇・上皇だった皇族の崇徳院が、何故負のパワーMAXで祟りを起こす大怨霊になったのかは、ネット検索すれば大量に見つかります。西行と崇徳院の関係もね。

とにかく崇徳院の生涯は幸薄かった。日本三大怨霊と呼ばれるのも納得できちゃうほどに。さぞかし深い無念を抱えていたことでしょう。ちなみに残る2名は菅原道真さんと平将門さん。全員平安時代の方ですな。
平安時代って武力行使の争いは少なかったけれど、最も陰湿でドロドロした時代だったね。

想像ですけど、ー祀られている怨霊って、その無念を知る人間達や、やましさを持つ関係者が、創作を加えて物言わぬ死者をスケープゴートに仕立て上げ、なんならその無念まで利用したかったんじゃないかねぇ。
何だかんだ言っても生きている人間が一番怖かったりしてね。

 菊花の約(きくかのちぎり) 

義兄弟の契りを結んだ二人の侍の話。

弟は、重陽の節句に再会を約束して旅に出た兄を待つ。しかし兄は囚われの身になり、約束の日に帰ることが物理的に不可能だった。
そこで兄は自害して、幽霊になって弟のもとに現れ再会の約束を果たす。

兄の性格がホラーだと思った(笑)。あと、どことなく友情というよりBL♡だった気がしなくもない。

ひょっとしたら約束を守ることの大切さを伝えたかったのかもしれん。しかし兄は何故そこまで思い詰めちゃうかなぁ。これじゃ命いくつあっても足りないよ。
会う約束のためなら、簡単に自死をする。残された人の心情も考えずに。
逆に会う約束すっぽかしたら、祟り◯されそうな勢いですな。怖っ。

 浅茅が宿(あさじがやど) 

戦乱の世で、幽霊となった妻と再会する男の物語。

優しい妻と暮らしていた男が親の財産を食いつぶした。そこで男は「京に出て商売で成功する」と言って家を出る。
7年後、「妻はもう亡くなっているだろう」と思いながらも家に帰ると、妻が迎えてくれた。 翌朝になると妻の姿は無く、家は荒れ果てていた。

妻は、夫が必ず帰ってくると信じて疑わず、再会できる日を夢見て心待ちにして、亡くなってもずーっと家で待っていてくれたんですね。そしてようやくその想いが成就したから消えたのでしょう。

健気な妻だ。夫は、すごく愛されていたんだなぁ。

なお《浅茅が宿》とは、イネ科のチガヤなど雑草が一面に生い茂って荒れ果てた家のこと。ちなみに昔は、チガヤを茅葺き屋根や籠などに利用していたそうだ。
繁殖力がもの凄いので「世界最強の雑草」と称されることもある。

Thank you!
〈 続 く 〉😊


『雨月物語/上田秋成』のシリーズ記事

『雨月物語』の記事は三回シリーズになっています。

〈文学1〉日本の文芸作品・短編小説・幻想・怪奇
葉っぱの上に乗った丸い雨粒。緑色の画像。
【第二回・感想】夢応の鯉魚,仏法僧,吉備津の釜,蛇性の婬,貧福論
葉っぱの上に乗った丸い雨粒。青い画像。
【第三回・深読み】雨月物語/上田秋成|『青頭巾』を読み解く

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