恒川光太郎さんのデビュー作『夜市』は、2005年の第12回日本ホラー小説大賞受賞作。一応ホラーですが、ファンタジー寄りのノスタルジックな作品です。
『夜市』書籍情報
タイトル:夜市
作 者:恒川光太郎(つねかわこうたろう)
小説家、ホラー作家。東京都出身。1973年〜。
デビュー作の『夜市』で第12回日本ホラー小説大賞を受賞し、直木賞候補になる。『金色機械』で日本推理作家協会賞を受賞。
『夜市』は表題作の他に、書き下ろし『風の古道』を併録。どちらも漫画化され、『夜市』はボニータ・コミックスに、『風の古道』はヤングサンデーコミックスの『まつろはぬもの』の5巻に収録されている。
〈コミックス版〉
タイトル:夜市
原 作:恒川光太郎(つねかわこうたろう)
漫 画:奈々巻かなこ(ななまきかなこ)
〈コミックス版〉
タイトル:まつろはぬもの 全6巻
原 作:恒川光太郎(つねかわこうたろう)
漫 画:木根ヲサム(みねをさむ)
簡単なあらすじ
表題作の中編小説『夜市』と、書き下ろしの中編小説『風の古道』を併録しています。
・夜市
何かを買わないと出られない夜市に参加した男女の話。
主人公が弟を救い出そうとする。
・風の古道
神々や物の怪達の通り道に迷い込んだ子供達の話。
主人公が友達を生き返らせようとする。
読書難易度:
文章が分かり易く美しいのでとても読みやすい。サクサク読めて、サクっと読み終わってしまう。
おどろおどろしさ、グロさ、不快感が無いので、ホラーが苦手な方でも抵抗なく読める作品だと思う。
感想・レビュー
もうすぐ夏がやってくる。
ということで、今回は夏になると読みたくなる恒川光太郎さんの『夜市』のレビュー。
この本は『夜市』の他に『風の古道』も収録されている。どちらも異世界に足を踏み入れた者の物語だ。
これが良い意味で「ホラー大賞なのにこれでいいの?ジャンル付けがホラーだけでいいの?」ってくらいライトでノスタルジックで、切なくて美しい和風異世界ダークファンタジーといった感じの傑作なんですよ。
田舎の民間伝承のような趣きがあるので、読んでいると物語の情景が思い浮かんできて、懐かしい気持ちになる。
祖父母の家の近くの無人の神社。その裏手に広がる薄暗い林。夜になるとそこから聞こえてくる梟の鳴き声とか。
筍掘りした竹林や、出店が並ぶ夏祭りの夜とか。
いつの間にか迷い込んでしまってギャン泣きした神社の鎮守の森とか。
うん、懐かしいな。
夜市
夜市は《よいち》と読み、夜にたつ夜店や市のこと。
物語上での夜市は、妖怪達が様々な品物を売る不思議な市場。そこでは望むものが何でも手に入るという。
主人公の裕司は、小学生の時に夜市に迷い込んで、弟を売って野球の才能を手に入れた過去がある。
彼は高校で同級生だったいずみを誘って再び夜市を訪れ、弟を買い戻そうとする物語だ。
もしも欲望が何でも叶うなら、自分は何を買うのだろう?何と引き換えるのだろう?と考えさせられた。
でも何も思い浮かばなかった(笑)。そりゃあ欲は有るけれど、あいにく失っても構わないものなんてゴミしか無いんだよなー。
風の古道
主人公の私は、7才の頃に親とはぐれて不思議な古道に迷い込んだ過去を持っている。
12才の夏休みに遊び半分で友達と再び古道に入ったものの、出られなくなる。殺されてしまった友達カズキを生き返らせるため、雨の寺を目指し、古道で出会った永久放浪者のレンと旅する物語だ。
さて感想
基本的には独立した話ですが、この2つの物語は少しだけ繋がりがある。同じ世界線ではないかなと思う。
どちらも幻想的で、人の弱さ、優しさ、強さが描かれた少し物哀しい物語だった。
裏切り、死、罪悪感、虚無、禁忌、境、閉塞的、分岐点、得たものと失ってしまったもの、犠牲、代償、摂理、約束事、本当に大切もの、生きる意志、人生の選択などが盛り込まれていて、なかなか深みががある。
ハッピーエンドじゃないけれど、後味悪い物語ではないところも良かった。
本は終わったけど、物語は続いていくんだなぁという余韻が心に残る。もう少し読んでいたかったな、という気持ちになった。
ちなみに私は『風の古道』の方が好み。レンが魅力的だった。
まとめ
今回は恒川光太郎さんの小説の表題作『夜市』と併録の『風の古道』の感想でした。
没入感があった。読者を日常の傍らにある異界に連れて行ってくれる素敵な作品だ。
おどろおどろしいホラーを期待して読んだら物足りないかもしれないけど、ホラーが苦手な人でも抵抗なく読める作品じゃないかな。
ジブリのアニメ『千と千尋の神隠し』、漆原友紀さんのマンガ『蟲師』がお好きな人ならきっとハマると思う。
よかったら読んでみてくださいね。
『風の古道』が収録されている作品。
「まつろはぬもの」とは、従わない人・服従しない人という意味です。
『風の古道』のレンが主人公なんですが、原作のレンとはキャラが違う。世界観も若干違うので、賛否両論があるマンガです。
原作を読んだ方で、このマンガにも興味をお持ちなら、まず試し読みしてから購入を検討した方が良いと思う。原作のファンの方ですと、このマンガは受け入れにくいかもしれないので。
でも絵もストーリーもクオリティが高いんですよ。なのでパラレルとか別物だと思ってこのマンガを楽しめる方なら、コレはコレで面白いと感じるんじゃないでしょうか。
ただ、ヤングサンデーが休刊となり、このマンガも必然的に打ち切りになってしまったんですよ。
そのため最終巻が、まるでダイジェスト版のような急ぎ足になってしまったところが残念。仕方ないんだけどね。
それでも読者はとりあえずエンディングを見れたのだから、良しとするべきかなと思う。