路生よるさんの『地獄くらやみ花もなき』は、ニート青年と、地獄代行業の和装美少年探偵が、事件を解決して罪人を地獄に届けていく和風ホラーミステリ。
『地獄くらやみ花もなき』書籍情報
〈小説版〉
タイトル:地獄くらやみ花もなき
作 者:路生よる(みちおよる)
小説家。愛知出身。
第3回角川文庫キャラクター小説大賞読者賞、第5回富士見ラノベ文芸大賞審査員特別賞受賞。
装 画:アオジマイコ
フリーランスイラストレーター。日本イラストレーション協会会員
〈コミックス版〉
タイトル:地獄くらやみ花もなき 全10巻(原作小説の肆巻まで)
原 作:路生よる(みちおよる)
漫 画:藤堂流風(とうどうるか)
『地獄くらやみ花もなき』の小説一覧
〈2025年4月現在〉
コミックス10巻にあたる肆巻で原作小説の第一部完、原作小説の伍巻から第二部開幕になる。
- 地獄くらやみ花もなき
- 地獄くらやみ花もなき 弐 生き人形の島
- 地獄くらやみ花もなき 参 蛇喰らう宿
- 地獄くらやみ花もなき 肆 百鬼疾る夜行列車(コミックス版はここまで)
- 地獄くらやみ花もなき 伍 雨の金魚、昏い隠れ鬼
- 地獄くらやみ花もなき 陸 黒猫の鳴く獄舎
- 地獄くらやみ花もなき 漆 闇夜に吠える犬
- 地獄くらやみ花もなき 捌 冥がりの呪花、雨の夜語り
簡単なあらすじ
古ぼけた洋館で相談所(地獄代行業)を営む美少年探偵・西條皓と、ニートの助手というかペット扱いされている遠野青児の事件簿。
妖ものですが、呪術や妖怪退治や憑き物落としの話ではないです。
読書難易度:
難しくはないです。でも一般的ではない名前が多いし、後半はキャラが増えていくのでやや覚えにくいかもしれません。
それと、ちょっとグロ要素があり、重くて暗めなので読む人を選ぶと思う。
感想・レビュー
第一部はコミックス版。第二部からは小説版を読んだ。
この世と異界の境界が曖昧で、善悪の境界も曖昧な独特の世界観も素敵。テンポもイイ!マンガの藤堂流風さんも装画のアオジマイコさんも、ちょっと狂気を含んだ美しさが有って素敵な絵だ✨
ただ、特に地獄に落とすシーンとか、なかなかグロい💧気分が落ちている時とか、繊細な方やメンタルに悩みを抱えていらっしゃる方ですと、ちょっとキツイかもしれません。
物語の地獄代行業とは、業を背負ってしまった罪人の一切を明らかにしてから、むごたらしく地獄に落としていく仕事。
これが勧善懲悪でありながら単純な絶対悪というものが無いので、読後感はちょっと複雑な気分になる。罪と呼ぶには悲しいものも有る。そこが良いんですけどね。
キャラありきでストーリーが動いて行くタイプの物語でしたね。
誰もが苦の中にいて、因果と想い、外的要因の狭間で葛藤し、心に哀と闇を抱えているワケ有りな人ばかり。しかも一癖も二癖もあるツワモノやらキワモノ達だ。面白くないはずがない👍
【POINT1】遠野青児
主人公。ビビリでおマヌケで頼りなくて、罪も借金も背負っている青年。
けれど馬鹿でも愚者でもない。自分なりに考えるし、案外理解力と洞察力があって、他人の気持ちに敏感で人に優しくて、信じる心を持っている。自分を必要としてくれる皓の役に立ちたくて努力し、欠点を克服しようと崖っぷちで必死に踏ん張っている。
要は、全然完璧ではないけれど、誠実で健気なので好感度バツグン。可愛いワンちゃんのようなキャラ。
そのせいかどことなく皓からペット扱いされて、しょっちゅう頭ナデナデされている。青児もまた苦の中にいるのだけれど、ピュアな性格のおかげで、暗い物語の中にちょとした息抜きや明るさが生まれている。
下から目線のツッコミとか、皓とほのぼのしたやり取りとか良いんだよなぁ。とても素敵なキャラだ。
【POINT2】西條皓
もう一人の主人公。半人半妖の美少年です。
稲生正令さんの『稲生物怪録』という江戸時代の妖怪物語が有るんですが、そこに登場する、魔王・山本五郎左衛門の跡取り息子という設定になっている。そしてこの世で罪人達を地獄に堕とす地獄代行業を営んでいる。
皓(しろし)は、鋭い洞察眼と明晰な頭脳で人の罪を暴き、裁き、罪人を地獄送りにしているが、罪人達の心もちゃんと見つめている。
自身も豊かな人の心を持ち、喜怒哀楽もあれば、実は心に傷もある。彼もまた苦の中にいたのだ。
【POINT3】小野篁
脇役キャラですが私の推し(笑)。平安時代に実在した人。物語では死後も閻魔庁で第三冥官として働いている。皓と対抗馬の凜堂棘の(りんどうおどろ)の推理勝負の審判役もしていましたね。
現代にめっちゃ馴染んでる万能系の人で、神出鬼没でカッコいいんですよ。
リアル小野篁さん
『地獄くらやみ花もなき』のキャラとしても素敵なんですが、歴史上の人物としても興味深い人なんですよ。
小野篁
小野 篁(おののたかむら、延暦21年〈802年〉- 仁寿2年12月22日〈853年2月3日〉)は、平安時代初期の公卿、文人。 参議・小野岑守の長男。官位は従三位、参議。異名は野相公、野宰相、その反骨精神から野狂とも称された。小倉百人一首では参議篁(さんぎたかむら)。
そういえば、アニメ『おじゃる丸』同名の主人公のモデルになったとか、小野小町の先祖という真偽不明の噂もありますね。
史実的には博学で、漢詩や和歌に優れていた人物とされる。現世と冥界を行き来したなどの伝説が残る不思議な人でもあった。
せっかくなので、小倉百人一首でお馴染みの小野篁さんの歌を載せておこう。
わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 海人の釣舟
引用:小倉百人一首より/参議篁(さんぎたかむら)
「漁師よ、小野篁は(流罪の刑を受けたので)島を目指して漕ぎ出した、と都の者達に伝えてくれ」っていう主旨の歌ですな。まるで世界を救うために冒険の旅に出る勇者みたいだ(笑)。
これは隠岐に流罪される時に詠んだ歌。当時の篁さんには憤りとかあったでしょうに。船が難破したり流刑先で病死したり、二度と本土に戻してくれないかも、とか色々不安もあったでしょうに。
それらを飲み込んで、腹を括って詠んだんしょう、きっと。
流罪の原因は、漢詩でNGワード入れてディスったことらしいが、現代で言うならラップみたいなもんでしょうか…😅
でも言霊と呪術とか、オカルトをガッツリ信じていた時代なので罪が重いんだろうね。
ディスっちまったもんはしょうがねぇ。罪というならそれでもいい。罰も受けよう。だが我は悔いるものも恥じるものも無い!悲観はせぬ!媚びも売らぬ!さぁ、旅立つぜ!って心意気が伝わってくる。
なんだか潔くてカッコいい男だなー(笑)。
ちなみに漢詩の才が有り過ぎた篁さんを世間が放っておかず、1年余りで早々に流罪を解かれたそうだ。
本書の話に戻ろう
小説の第6弾『地獄くらやみ花もなき 陸 黒猫の鳴く獄舎』 は、エドガー・アラン・ポーさんの『黒猫』がベースになっている。そういえば子供の頃読んだな『黒猫』。
本作では「黒猫が生き返った」という不可解なメモを遺して、ある小説家が死を遂げた事件が起きる。
この回は凛堂兄弟メインでしたね。 この二人もなかなか魅力的なキャラでした。欲を言えば黒猫を可愛がる小野篁さんを、藤堂流風さんのマンガで見たかったな。
それと物語はとても面白い。何の不満も無かった。
だが、お猫様の下僕になっていらっしゃる読者ですと、物語とはズレた所でモヤるしれない。特に黒猫を飼っていらっしゃる方。
昔の西洋って、毛が黒いだけで犬や猫を極端に悪しきものや恐怖の対象に認定しちゃう感性って、なんだかなー。人間の方がよっぽど怖いのにね。
ウチに黒猫の女の子いるけど、人にも猫にもめっちゃフレンドリー。お利口さんで癒し系。チンチクリンでポテンポテン。実に愛らしいぞ♡
また話が脱線してしまった💧
えっと…、第8弾『地獄くらやみ花もなき 捌 冥がりの呪花、雨の夜語り』で、小野篁さんがちょっと気になる展開になったんですよ。
次巻あるよね?クライマックスが近づいているのかな?気になるから早く次巻出してー。
まとめ
今回は『地獄くらやみ花もなき』の感想でした。
人物像と、人と人の絆を丁寧に描き出している、良質の和風ホラー系ミステリでした。
皓と青児は、お互いに相手の心を救済し、絆を深めていくんですよ。特に小説では第一部完結となるコミックス最終巻のエンディングは、とても良かった。
皓が暗闇に咲いた白い牡丹の花なら、青児はその暗闇を照らす希望の光のような存在だと思った。
凄く面白かったですよ👍
江戸川乱歩、横溝正史、泉鏡花、京極シリーズあたりがお好きな人や、探偵ものや和風ホラーがお好きな方ならきっとハマると思います。
良かったらぜひ読んでみてくださいね。