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【第二回・深読み】桜の森の満開の下/坂口安吾|桜の化身と山賊

4.03.2025

文学1

花が咲いている桜の枝

【第一回・感想】桜の森の満開の下/坂口安吾|美と狂気と幻想との続きです。今回は、美しく残酷な女と山賊の男ついて、自分なりに読み解いてみました。

女の正体

女の正体は鬼ではない。どこまでも山桜そのものだったのではないかと思う。つまり山桜の化身。
それを念頭に置いて読み解くと

・女は、山賊に背負ってもらって山を降り、山に戻る時もまた背負ってもらう。
理由は、桜の木は自力で移動できないから。植木の移植みないなもんだね。

・都に住んで着飾っても引き籠もり。
理由は、桜の木は、人が花見をするために咲いているわけじゃないから。

・自らの手は汚さず、男にガンガン首狩りをさせる。
理由は、桜の木は自ら殺生することはないが肉食の大食漢だから。つまり肥料が大好きな植物で、死体から養分を吸収するから。

だと解釈した。坂口さんは桜と女をイコールと設定しているがゆえに、こういったエピソードを入れたんじゃないかと思う。

 桜の化身の精神性 

人間の物差しで見ればエグいけど、本人は残酷・我儘とかいう意識も無くて、倫理観への理解も薄かったんじゃないかな。
男を誘惑して騙して利用してやろう、という人間的な悪意も無かったと思う。

人の姿で人の暮らしに一応は溶け込んではいるけども、そもそも人間ではないのだから、根本的に精神性が違う存在なんだろう。ならば人の道が分からないのも仕方がない。

桜の花は美しく咲き誇ってナンボ、潔く花吹雪になってナンボですもんね。
ひたすら自分の本能に忠実に屍(生首)を欲し、美しく着飾りたかっただけなんでしょう。
桜の化身にとっては、人間の食欲と同じように、本能的部分だったからきりが無かったんじゃないでしょうか。

桜の化身と古女房

足にちょっと障がいのある女だけを◯さなかったのは、優しさでもなく、同情でもない。女中のように家事などを任せたかったという利己的な理由だった。 また己の美に拘る女が、一番残念だった容姿の古女房を自分の引き立て役に利用できると思ったのも容易に察しが付く。

でももう一つ理由があると思う。

都に移り住んでいた女が男と山に戻る際、また戻って来ると古女房に声をかけている。 自分の言いなりの男だから戻って来れると思ったんだろうね。

それはともかく、山桜の化身の女の目には、歩くのに支障がある古女房には、移動が苦手な自分と同類のような近親感を感じていたのではないかと思う。

つまり古女房と自分の関係は、現代で言うところのコンパニオンプランツみたいな感じだと思っていたんじゃないだろうか(他意はないです。もし不快に感じた方がおりましたら、すみません🙇)。

ちなみにコンパニオンプランツとは、近くで栽培すると互いによい影響を与え合う植物のこと。もっというとメインの野菜等の植物の、病害虫の防除や生育促進の補助が目的で近くに植える植物のこと。

生首蒐集して遊ぶ理由

理由が書かれていないので、想像逞しくいきます。

女の生首のリクエストは、姫、僧侶、大納言、白拍子など、人々が注目したり、憧れたり、羨んだり、尊敬したり、傅いたり、跪いたりする対象ばかりだ。
もっと言うと、人々から特別な想いを集めてきた者達。

でも女は彼らに成り代わりたかったわけではない。人間に成りたかったわけでもない。 なぜなら、それなりに人間を知ってマネしてはいたけれど、基本はマイペース。人間を観察し、学習し、理解を深めようという姿勢は全く無かったので。

個を識別できるから、価値のラベルの象徴となるから、そして人の想いが集中しているパーツであるから生首が欲しかったんじゃないかな。

死体に残る想いも頂きたかったのではないかな。
一番贅沢で美味しいパーツなんじゃないかな。

人間にとっては生首で、残酷で孤独な遊びをしているように見えるだろう。
でも本人には大切で愛おしいモノだから、嬉しくて無邪気に愛でていたんでしょう。そして命の残り香や想い吸収していたんじゃないかな。

人の命と想いの名残りを乗せた桜の花は美しい、という価値観をもっていたんじゃないかな。
それが女にとって豊かで贅沢な暮らしだったんじゃないかな。
人が美味しいご飯を頂いて豊かに暮らすように。

 桜の化身の愛 

人間的な愛って、感情の延長線上の愛、種の保存や繁栄のための役割の一端を担う愛とか色々あるね。愛に内包されている愛情ってのもある。

でも例えば、他の生物にも愛らしきものがあると仮定するなら、人間の定義する人間的愛とはちょっと違うんじゃないだろうか。
他の生物の愛らしきものが、種の保存や繁栄のための役割の一端を担う愛限定だとしても、その愛も厳密には人間的愛と同質とは言えないと思うんだ。愛らしきもの、とすら呼べない生物もいるだろう。
人間が、人間以外の存在を研究して、愛らしきものを知識として知り得たとしても、深い理解には至らないとも思う。

それを踏まえて桜の化身の愛を考えると、
桜の化身の女は、人間味のあるキャラではなかった。人間からすると異種族ですから、知性は有るけれど気質が異質な設定なんでしょうね。

山のジビエが食べたくて男の女房になったわけじゃない。
男が、前の旦那を◯してみせたから、女房になったんだと思う。
この男なら、自分の望みを何でも叶えてくれる、生首や美しく着飾るモノを沢山与えてくれる存在だと期待したんでしょう。

恐らくそこに人間的な愛の感情は無かっただろう。桜の化身としての愛なら多少はあったのかもしれない。
仮にそれがあったとしても、人には理解も共感もできないものだろうなぁと思った。

人間と桜の化身が築ける関係性って、ガーデナーと植物、人が屍なら養分と植物って感じでしょうかね。

山と都

桜の化身にとっての山と都

もしも都の文化的暮らしが望みだったなら、もっと都の社会の中に溶け込んで、都人として都をエンジョイして暮らしていたでしょう。
けど女は都に住みながら、都と関わりを持たずに引き籠もっていた。

自分がリクエストした都のモノを、男が持ってきてくれればそれで満足だった。
承認欲求が欠落しているので、引き籠もって着飾って自己満足するだけで十分だった。 生首を蒐集して、支配して愛でて入れば十分だった。

女にとって本当は、人間の文化や文化的な暮らしなんて、どうでもよかったんじゃないかな。

ただ美しく着飾るものが沢山有って、いずれ屍になる人間が大勢いる都は、山よりも遥かに豊かな場所だと思っていた。それだけじゃないだろうか。

山賊の男にとっての山と都

男には生活圏問題は深刻だった。

最低限の素朴な生活で、自由気ままに暮らしていた山での暮らし。居心地の悪さを感じる都。
山で培った知識も経験もノウハウも生活スタイルも常識も都では通用せず、知らないことばかりで慣れることも好きになることもできない文化的な生活圏。
それによって今まで知ることのなかった感情を経験して、ストレスが溜まり、あまり使ってこなかった脳ミソで考えるようになる。

一つひとつはただのモノであった紅や簪。欲しがる物を女に与え、視覚的な美の総合力というものを知り、最初は心満たされた。でも女の要求はキリがなかった。
生首もそう。狩ってもても狩っても女の要求にはキリがない。
女の言い分にも納得がいかない。人が納得して受け入れられるはずも無いでしょうが。

女への得体のしれないわだかまり。桜の森で感じた恐怖に似た感覚。女と自分の関係性。自分の想い。予感。
心の奥底では色々気付いている感じだけども、顕在化していなくて漠然としたまま。

けど、好きで選んだ都の暮らしでも無いし、色々ウンザリして山に戻る決意を固めたんでしょうね。

Thank you!
では、またね😊


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