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【第一回・深読み】ガラス玉演戯/ヘッセ|愛の風光に満ちた名作

7.05.2025

文学1

ビー玉5個。

『ガラス玉演戯』は、ヘルマン・ヘッセさんが10年の歳月をかけて執筆した最後の小説。最高峰の大作にしてノーベル文学賞受賞のきっかけになった名作です。

『夜市』書籍情報


カテゴリとジャンル:〈文学1〉海外の文芸作品・ドイツ文学・教養小説

タイトル:ガラス玉演戯
作  者:ヘルマン・カール・ヘッセ(Hermann Karl Hesse)
ドイツ出身でスイスの作家。1877年〜1962年。
ノーベル文学賞、ゲーテ賞、ドイツ書籍協会平和賞受賞。

※紙の本は絶版のようです。電子書籍、図書館本、中古本(⇦ただし高額でしょう)なr読めると思います。


 簡単なあらすじ 

主人公の伝記というスタイルで書かれた、教養小説といったところ。

未来の理想郷カスターリエンで、主人公ヨーゼフ・クネヒトが、ガラス玉演戯で頂点に立つ。やがて理想郷の閉鎖性や現実との乖離に疑問を感じるようになり俗界へ向かう。

読書難易度:
読書難易度高いです。
文章自体は別に難しくないのだけれど、内容を深く理解しようと思うと、歴史や執筆当時の時代背景の予備知識、西洋と東洋の宗教思想についての深い知識などが必要になる感じですね。

感想・レビュー・考察

名前がクネヒト(ドイツ語で従う者という意味)というだけあって、後半に俗世に向かった出来事も含めて、どこまでもカスターリエンの理念に忠実であろうとした生涯でした。
高潔な精神だね。

さて『ガラス玉演戯』の何について深読みしようかな…
んー、コレに⇩フォーカスしようか。

 あっけないクネヒト 

輝かしい才能と経歴を持った聖人でありガラス玉演戯の名人である主人公・クネヒト。
彼は、高山の湖で先に泳ぐ教え子ティトー少年に誘われるように、自分も湖に入っていく。
しかしもう若くないクネヒトには登山による疲労が残り、高山の空気は薄く、湖の水はヤバいほど冷たい。
そんなこと最初から承知していた。でもまさか自分に死亡フラグが立っているとは思いもよらず。だったんでしょうが…
案の定、溺死。ポックリ逝っちゃっうわけです。

クネヒトの判断1

諸行無常といえばそうだろうけど、当然の結果だ。
あーあー、クネヒトお前もか…、と思った。

.見るがいい!様々な物語の主人公達をっ!😆

彼らは誰にでも気軽に話かけ、扉に鍵がかかってなければ無断で侵入し、事件が起きれば真っ先に首をつっこみ、危険な誘いや賭けにはホイホイ乗り、他人の要求には安請け合い。
軽率にも自ら危険に飛び込むのだから、危険に巻き込まれて当前よ?
安全を心がけて平凡な日常を生きていれば、危険な目に遭うことは少ないものを。

危うきを知らぬ無知な者は、容易く危うきに遭い、
危うきを軽視する愚者もまた、容易く危うきに遭う。

.教訓
年寄りの冷や水は控えましょう。
君子危うきに近寄らず。

クネヒトの判断2

ティトーは他人様の大切なお子様である。

クネヒトは状況判断して、大人としての自覚と責任ある行動を取るべきだった。
「ワシ年寄りやから、ココで見てるわ😊」と事故防止目的も兼ねて見守ってあげるとか、「水温低いし空気も薄いからからやめとき」と注意するとか。
なのに、クソ重たい犠牲的愛を選んだ。その愛が、俗界のオトナの常識からズレているところがクネヒト・クォリティだった。

 深読み 

俗界で育った成人のように、経験や常識を学ぶ機会がクネヒトには無かったのだろう。
でも多分、それだけじゃないね。 生前のクネヒトはカスターリエンの理念に忠実である道を歩み、その理念の具現者と成ることを選んだ者ですので。

だからこそ理念から剥離したカスターリエンを離れ、俗界に向かった。
そして山に登ったティトーの行動から自由な精神を学び、自分も高山に登る。寛容さを示してティトーに応えたわけですね。
翌朝はティトーのダンスに感動して、失望させたくなくて冷たい湖に入った。

まずクネヒトは、素人(と思われる)ティトーのダンスのどこに一番感動したのだろう?
やっぱり自由に踊る楽しさが伝わってくる、明るい笑顔かな。ベタだけど、人の笑顔は素晴らしい。
ティトーに笑顔のままでいて欲しかったのかもね。

ヘッセさんがこの作品を執筆していた頃って、ちょうど第二次世界大戦中ですし、人々は自由に生きる権利を奪われ、その顔からは笑顔が消えていた時代でしょうから。

変容するクネヒト

当たり前ですが、自分の人生は誰かのためにあるのではなくて、自分のためにある。

クネヒトは、カスターリエンで生きてきた中で確立した自分軸を持ち、自分の人生を歩む者だ。出来上がっちゃっているからブレないんだろうね。
それ故に見返りや感謝を求める心が生じることもなく、誰かのために何かをしたい!という気持ちが生じたんでしょう。

見返りや感謝を求める心が無ければ、心に苦は生じない。
その結果、自分がお星様になろうとも。

だとすれば、クネヒトがティトーに示した犠牲的愛は、究極の自由意志から生じた利他愛と自己愛であったわけだ。
しかも「やりたいんだもん(自己愛)」と「やってあげたいんだもん(利他愛)」。2つの愛のベクトルがピッタリ一致していた。
ヘッセさんは、それが究極の自由意志だとか、人間の示せる究極の愛だとか考えたのかもしれんね。

もっと言うと、クネヒトはガラス玉演戯の名人だったので、表現者としての一面を持っている。
だから自己を表現するティトーに感動して、現世の諸々を忘れ、二人でコラボして美しいハーモニーを奏でたかった。
つまり自分の内側に生じた愛と感動と、ティトーの自由と楽しさ、明るさを融合させたところにある、歓喜という美を具現させたかったのかもしれん。

そしてティトーが入っている湖に自己を浸した瞬間、クネヒトは時を離脱し、心と肉体が矛盾なく重なり、自分の中に生じた利他愛と自己愛が美しい調和を奏でて抱き合い、融合し、それら全てが《人間・クネヒト》として統合された。
更にクネヒトとティトーの心と心が調和の中で響き合い、結ばれ、融けて、クネヒトの望んだ通りの新たな美、究極の美が生まれたのだろう。
湖は子宮のメタファーだったのかもね。

始まりと終わりが同時にある一瞬。
その一瞬にフォーカスするならば、人の愛も永遠になる。奏でられた小さくて儚くも美しい響きも、永遠の響きになる。

このとき『クネヒトの生涯』という演目の、ガラス玉演戯が大円団を迎えたのかもねぇ。
その一瞬の中にある永遠の響きは、同時にクネヒトの墓標となってしまったけれど。

Amazon・ガラス玉演戯(上下)合本版 / ヘルマン・ヘッセ

まとめ

クネヒトは、カスターリエンの理念という属性の中で、人間・クネヒトなりの愛を表現した。

その愛は創造であり、自由意志であり、統一であり、融合であり、調和であり、連続であった。

クネヒトは物理的には俗界に行ったけど、ずっとカスターリエンのミームの中にいて、心はカスターリエンの理念に沿った理想郷から、一歩も外に出なかった人だと思う。

いつだって高く神聖でキラキラしたカスターリエンの真理の風光の中にいて、泥んこになったこともなく、影すらも無く…
そしてカスターリエンという光属性の悟りを得た(かもしれない)人、といった印象だった。
宗教神話のようにリアリティをあまり感じないキャラけれど、そういう生き方もアリだろう。

クネヒトは意思するところに向かって生き、 己が意志するところへ向って死んだ者だ。 ずっと究極の意識高い系でいられた人だろう。
ある意味、キラキラした人生を歩めた幸せな人だと思う。

.つづく 😊.


『ガラス玉演戯/ヘルマン・ヘッセ』のシリーズ記事

『ガラス玉演戯』の記事は二回シリーズになっています。

〈文学1〉海外の文芸作品・ドイツ文学・教養小説
ビー玉5個。青い画像。
【第二回・深読み】ガラス玉演戯/ヘッセ|クネヒトとティトー

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