【第三回・感想と深読み】五輪書/宮本武蔵|武蔵の空と仏教の空の続きです。『空之巻』の漢文についてや、『五輪書』は本当に未完だったのか?といった謎を、私なりに推測してみました。
最後の漢文に違和感を感じないか?
私は、『空之巻』の最後に書かれているこの漢文は、宮本武蔵さんの死後に、誰かが書き加えたものに違いない!と思っている。空有善無惡 智者有也
理者有也 道者有也 心者空也引用:五輪書 / 空之巻(新免武蔵玄信)
意味は「空には善が有って悪は無い。智を有し、理を有し、道を有する者の心は空である」ってところかな。これじゃ本文が台無し💧
誰だぁ?こんな落書きした奴は?(笑(笑
根拠
『空之巻』は、そんな話がしたかったワケじゃなーい!(笑(笑
根拠1
なんでいきなり《知・理・道》で、心が《善しかない空》になっちゃうの?どこにそんなこと書いてあった?
第三回 でも書いたけど、本人は《知》+《心・意・観・見》+《技・体》の総合力を極めて兵法者として理想的な状態になることを《空》、それを継続すれば《空の道》としているんだと思うけどなー。
根拠2
宮本武蔵さんの立場で、自分の語る“空”が《善》だと主張するなんて愚かしいわい(笑)。
だって善悪言い出したら、この人ツッコミどころ満載やん。墓穴掘るような事は書かないでしょ。
宮本武蔵さんは、《空》自体について善悪のジャッジはしていないし、心の集合点を善サイドに置けとも言っていない。何事も偏るなと主張している。
根拠3 心情的にも《善》の字は使えないのでは?
後悔も無く、モラルも無い心で人を斬ってきたとしても、死者達への配慮があれば、《善》のワードは使えないと思うんだ。
自分の何かが《善》だとジャッジすれば、それに対応する死者の何かが《悪》だった、と遠回しにディスるようなもんだ。自分の死期が近いと知っていたなら、なおさら無神経な文言は書き残したくなかっただろうよ。
ま、アレだ。
闘い自体には本当は善も悪も無く、正義も悪も無く、ただお互いに都合が有っただけってことくらい、老齢の兵法者なら解っていたと思う。《空》が云々と思想的なことを言ってるくらいですし。
しかし人には知と意の他に、情がある。
互いの都合がせめぎ合う中で、自分は今まで何でもアリの戦法でその手を汚してきた。そして敗者の生命と共に、その手から己の中の善なるものがこぼれ落ちていった。
勝利は己の勲章としている。悔いも無い。でもその手には、まだこぼれ落ちていないものが残っていた。
それは、もはや軽々しく善とは呼ぶことはできなくても、最後まで大切にしたかった想いだろうよ。良心の欠片ってやつだ。
『五輪書』で己の無敗自慢や他流派のダメ出しは書いたのに、死者達について黙した理由もコレじゃないの?
そこは汲んでやれよ💧って思ったよ。
まとめ
誰が寄せ書きしたのか知らないけど、知性も配慮も無い善(正義も追加しよう)ほど、タチ悪いもんはないな…
だから最後の漢文は、本人の言葉とは思えないんだ。
私が、宮本武蔵さんを買い被り過ぎていなければ、ですけどね。
『五輪書』は本当に未完か?
『空之巻』は序文しか書かれていない未完の書である。というのが定説だと思う。けど、原本には、序文とは書かれていないね。
私は、これで完結・完成だと思う。
根拠
宮本武蔵さんが『空之巻』で伝えたかった想いは
これが曇り無き真の道を見出し、
己のただ一つの道と定めて歩み続け、
ひたすらにその道を極め、深め、
実の空に達した者の兵法書である。
故に兵法の道を歩む者よ、
いかなる時もこれを己の真として生き、
これを己の真として兵法を行なうならば、
己の歩む道が空と成り、空が道と成る。
だと私は読み解いた。
原文自体の締めとしてもいけそうな内容なので、これ以上《空》とやらをこねくり回して書く必要も無いと思うんですよ。
なので人生の集大成としても、ひょっとしたら遺書だったとしても、『空之巻』は、これで完成じゃね?『五輪書』で指南的なことは書き残せたし、言いたいことも言い切ったし、理想の自分像も盛り込めたし、心残りも無く旅立ったんじゃない?と思ったわけだ。
どうでしょうか?
あとがき
宮本武蔵さんは己の道を、単なる真っ直ぐな道というよりも、大地に流れる大河のように強くしなやかな道をイメージしていたんのかもしれないね。
ひょっとしたら老子の説く《道》のダイナミックさと、己の《道》を、イメージ的に重ねていたのかな?と思った。ただ、老子は道教系ですしスケールがでかい。宮本武蔵さんの心の立ち位置とはちょっと違うと思うけど。
ついでに言うと『空之巻』は、《空》の本質や真髄を教え説く目的とは違うと思う。思想家や宗教家ではないので。
また、『五輪書』はHow toが書かれているので指南書の類いではあると思うけど、口伝ではなく巻物に書き残したので、秘伝や奥義のつもりではなかったと思う。
なので秘伝や奥義や本質などの凄いラベリングは、後世の人達による権威付けじゃないかなぁ。
いやぁ、それにしても長々と書いちゃった😂
『五輪書』の背景にある宮本武蔵さんの人生や人物像に思いを馳せたり、『空之巻』では思考の冒険ができたりので、なかなか面白かったよ。
プロフェッショナルな人の考えに触れることで、得られるものがきっと有ると思うので、良かったら読んでみてね。
関連書籍
『五輪書』の記事は、こちらでも紹介しています。