洪自誠さんの『菜根譚』は、400年ほど前に書かれた中国古典の一つ。儒教、仏教、道教の思想を融合させた処世訓集の最高傑作と評されるロングセラー。
『菜根譚』書籍情報
タイトル:菜根譚
作 者:洪自誠(こうじせい)
著作家。中国出身、生没年未詳。本名は洪応明。
簡単な内容紹介
随筆集ということになっているが、内容は、儒教、仏教、道教のいいとこ取りした処世訓。清貧思想寄り。
読書難易度:
現代語訳なら簡単。万人向けです。
ただ、本書を読んだからといって儒教、仏教、道教に詳しくなるわけではないです。
儒教、仏教、道教を深く知り、理解したい方は、各ジャンルの専門書や経典を読まれた方が良いです。
感想・レビュー
完璧な本ではないけれど、生涯折に触れて何度でも読める、いや、読みたくなる本だった。
道徳的な生き方を提唱している本。人生のバイブルになり得る1冊だと思う👍
そしてさすが名著、複数の出版社から出版されている。
良いと思ったところ
1.
私は現代語訳されたものを読んだのですが、難解なことは書かれていません。読書慣れしていない人でもサクっと読める。
『論語』よりも読み易く、東洋思想や西洋哲学よりも分かりやすい言葉で書かれている時点で優秀な本だと思う(笑)。
そして名言集のようなもんなので、どこからでも読める。
2.
本国では『菜根譚』を読む人は滅多にいないそうだが、儒教・道教・仏教から影響を受けているので、日本人が大好きな中庸も盛り込まれている。日本人には理解も共感もできる内容だと思う。
3.
当たり前のことが多く書かれている。その当たり前が満遍なく書かれてるって案外凄い本だと思うのよね。
4.
宗教思想の影響大だけど経典や聖典の類いではないので、信心を要求していない所が良いんだな。
捻くれた見方をすれば
多少現代人の感覚には合わないところがある。けど、そこは大目に見たい。
ただ、本書に限ったことではないが、人生訓や処世訓ってやつは理想論的であることが多くて、現実的には「言うは易く行うは難しよね」って内容だったりするのよね。
なので御隠居様のお小言集のように感じてしまうかもしれません。
処世訓というよりも自分の感想・印象・嗜好っぽいものが書かれている箇所や、矛盾を感じる部分もチラホラあったな。あと割と偏ってると思う。
清貧思想
清貧思想というのは、持たざる者の不衛生なリアル貧乏暮らしを礼賛したり、「貧乏になれ」と勧めているわけではなくて、物質的な豊かさを求めない生き方のことらしい。
そのシンプルな生き方を心がけ、慎ましく暮らすことで、無駄な我欲から自由になりましょう。
そして大切なものを見失わなずに、豊かな心を養って、心清らかに暮らしましょう、という考え方だろうと私は理解している。
日本にいるとピンとこないかもしれないけど、清貧ってそれなりに生活力が有る人だけが選択できる生き方なのよね。
洪さんは清貧推しの日常生活者のポジションから書いていると思うけど、それなりに裕福な知識人だったんじゃないかな。
価値観
ネタ元は道教などから抽出した思想ばかりなので良いことがいっぱい書いてある。
しかし結局は「正しき人の道は清貧・淡白!それが人間の幸せなのだ!」という己の《価値観》を主軸にしている。
これは正解とも不正解とも言い切れないし、老子も釈迦もわりと好きなので概ね共感と理解はできる。
けど「洪さんの価値観への拘りが、淡白には思えないんですが?😂」ってツッコミ入れたくなった(笑)。
富や権力に対する反感も強いし。
自分にとって都合が良いこと、自分の思想に沿うことを善とするのが人間なのでしょうがないのかな。
なので、この本は洪さんの《価値観》への拘りのお話でもあるね。
ちょっと反論するなら
反論と言うには大げさかな。でも備忘録として書いておこう。 ちなみに私の立ち位置は、私は節約・倹約ぐらいはするけど、別に清貧推しではない読者。
清らかさの条件
私は、持てる者が敢えて清く貧しく暮らすことが、心清らかな人の条件だとは思えないのよね。
清貧が幸せの条件だとも思っていない。
何より裕福層が敢えて清貧な暮らしをするというのは、実は自己満足に他ならず、じゃないかなぁ?
故に清貧も拘り偏り過ぎれば我執になり、自己の本質の理解から遠ざけるんじゃないかなと思うんだ。
理由は清貧の原動力。
清貧を行う《意味》によって得られる充実感と、
清貧に見出した《価値》によって得られる満足感。
そこに惹かれたんだと思うんですよ。
つまり生活力がそれなりに有る前提で、執着するものがあるから清貧に生きれるんだよな。淡白であろうとする心も執着でしょう。
己の徳を積みたい、幸せになりたい、悟りたい、清らかでいたい、と執着する心も然り。それは無心でも無欲でもないし、《あるがまま》でもないのよね。
生きている限り、人は執着(煩悩でもいいけど)からは逃れられないんだなぁ。
勿論、清貧から、清らかな心や幸せを目指し経験するのは素晴らしいと思う。
ただ、清貧暮らしに大きな比重を持たせて心を束縛する必要なんか無くて、心の赴くままに、でいいんじゃないかと私は思う。
清貧な生き方を選んでも選ばなくても、悪人でも善人でも、生きていたら楽しいこともあれば辛いこともあるし、自分次第で幸せにも心清らかにもなれるはずなんだよね。
ごく普通の日常生活者の読者目線ですけどね。
実は書物クンかな?
失礼だけど、何らかの悟り体験を経て識ったことを書いた感じはしなかった。先人の思想はよく知っているが、深い理解までは至っていない知識人といった印象だった。
それが悪いというわけではないんだ。ただ…
識者には識者としての人生の学びがあり、
同じように愚者には愚者としての、凡人には凡人としての人生の学びがあるはずなんだ。
清貧に拘る人生には、その人生を通しての学びがあり、
同じように清貧に興味が無い者も、持てる者も持たざる者も、求道者も日常生活者も、それぞれの学びがあるはずなんだよ。
清貧・淡白推しするにしても、そんな感じの理解は本書のどこかで示して欲しかったなと思う。
その色眼鏡を外して、さらに広い視野で多くを観れば意味も無く、無意味も無く、一切は等価に観えたかもしれないねぇ(倫理や道徳の話ではない)。
洪さんにその理解が有るうえで、心の赴くままに清貧・淡白を選んでいたなら、もう少し本書に寛容性が見られたかもしれないねぇ。
そんなことを思った。
まとめ
今回は、洪自誠さんの『菜根譚』の感想でした。
万人向けに処世の道をいっぱい説いている良書でしたね。
勿論、現実社会を生き抜くには、この本だけでは全然足りないでしょうが、読んで後悔はしない本だと思う。
ただ深読みするとアレな部分が見えてきちゃうので、サクッと読んで、人生で辛いときにたまに思い出して再読して、ヒントになる部分を抽出するのがベストかなと思った。
清貧、スローライフやシンプルライフ、スピリチュアルや啓発に興味をお持ちの方だけでなく、誰にとってもこの本は善きバイブルになり得るんじゃないでしょうか。
なんなら一家に一冊あると良いんじゃないかしら?って思えるくらい素晴らしい✨
中途半端な自己啓発本の類を何冊も読み漁るくらいなら、この一冊だけで十分だと思えるほど有意義な人生の指南書ですよ。
あ、欲を言えば孔子の『論語』もあれば理想的だな。
きっとあなたの人生に役立つ珠玉の言葉がちりばめられているはずです。
人生に生きづらさやストレスを感じた時、迷いを感じた時、落ち込んだ時、ふと思い出してこの本を開いて欲しいなと思う。
この本の中に、心が楽になる生き方のヒントや心が穏やかになる言葉が見つかるでしょうから。
機会があればぜひぜひ読んでみてくださいね。