梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』は、不登校の少女まいちゃんと祖母の心のふれあいや、心の成長を描いたハートフルな物語。大人も楽しめる名作です。
『西の魔女が死んだ』書籍情報
タイトル:西の魔女が死んだ
作 者:梨木香歩(なしきかほ)
児童文学作家、絵本作家、小説家。鹿児島県出身。1959年〜。
日本児童文学者協会新人賞、新美南吉児童文学賞、第44回小学館文学賞受賞作品。
簡単なあらすじ
祖母と不登校になった孫娘の愛情物語。ファンタジー要素は殆ど無い。
読書難易度:
児童文学なので簡単。でも大人の心にも響く物語なので万人向けだと思う。
感想・レビュー・考察
ずいぶん前に映画化もされているベストセラー作品らしいので、この作品をご存じの方も多いかな?
ちなみに、私はこのレビューを書くまで、映画化のことは知りませんでした😅
タイトルに《魔女》の字が入っているので、『オズの魔法使い』のようなファンタジー性がある物語だと予想して読んだんですけどね。
例えば、呪文を唱えて摩訶不思議な能力を発動させたり、箒で空を飛んだりするカリスマ的な魔法使いの婆ちゃんかオネェちゃんが登場するのかなぁ、と。
で、その魔女が西に住んでいて、ごく普通の少女に魔法を伝授して、お亡くなりになるパターンのファンタジー物語かなぁ、と。
しかし読んでみたらファンタジー要素は殆ど無かった。でもガッカリ感は全く無い。素朴でハートフルで素敵な物語だったので。
『西の魔女が死んだ』のストーリーを簡単に説明すると、自然に囲まれた環境で、大好きなおばあちゃんから、ファンタジックではない魔女の手ほどきを受けることになる。
魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決めること。
しかしおばぁちゃんとの間に心の溝ができてしまい、仲直りしないまま同居生活が終了してしまう。でもおばあちゃんはちゃんと約束を覚えていた。
強くてしなやかで優しくて豊かな愛情を持ったおばぁちゃんだ。まいちゃんも可愛いけど、おばぁちゃんも可愛い人なんだなぁ👍
【POINT1】大人の心にも響く
物語の中で、まいちゃんはメンタル的にシンドい環境から離れ、おばあちゃんと自然に囲まれた環境の中で暮らす。
西洋の素朴な生活スタイルを満喫しながら、色々学んでいくんですね。善き時間の過ごし方だな。
子供だって、生きていりゃ色んな事があるよね。
本当は救われたかった。逃げ出したかった。寂しかった。劣等感を感じた。何かを我慢していた。子供ゆえの無力感を痛感した。誰かに手を差し伸べてもらいたかったとか。
誰もが子供時代に、大なり小なりそんな経験をしているんじゃないだろうか?
お金や、薬や、学校の教科書ではどうにもならない苦ってやつ。
だから大人でも心に響く物語なんだろうなぁ。
多分、サボテンや蓮の花やシロクマのたとえ話に、心が救われた気分になった人って多いんじゃないでしょうか。別にどうってこと無いたとえ話なんだけど、でもとても良い話なんだ👍
私はこの物語を読んで「現代の悩める子供達に、手を差し伸べてくれる大人がいますように」なんて、ついガラにもないことを願ってしまったよ(笑)
【POINT2】おばあちゃんのメッセージ
おばあちゃんの元を去ってから、おばあちゃんと会うことはなかったまいちゃん。
しかし亡くなったおばあちゃんから、まいちゃんにメッセージが届く。
短いメッセージだけど、その言葉にはおばあちゃんの想いが集約されていた。感動のシーンでした。
おばあちゃんは、まいちゃんの居場所を作り、繊細なまいちゃんの心を受け止めていた。
孫が自分の元から離れていく寂しさよりも、孫への愛情や、孫の幸せと成長を願う気持ちがはるかに勝っていた。
まいちゃんの感じていたであろう気まずさも後悔も察していて、そのネガティブな想いの全てを、おばあちゃんの愛情で包みこんで旅立っていったんだなぁ。
なんて素敵なおばあちゃんだ。
【POINT3】西の魔女と東の魔女
西の魔女・東の魔女というと、ライマン・フランク・ボームさんの『オズの魔法使い』を思い出したんですけど。確か双子のヒールキャラでしたね。
『西の魔女が死んだ』は愛に溢れた東西の魔女でした。双子ではないけれど、強い絆で結ばれた身内ではあった。
西洋人のおばあちゃんが、東洋人と結婚。それから時が経ち、西洋の血筋を少し有する東洋人の孫まいちゃんが生まれた。
そしてまいちゃんは、おばあちゃんのスピリットを受け継ぎ、東洋の魔女として立派に成長していくはずだと確信した。
日沈む国(英国だけど)の魔女が旅立ち、日の出ずる国の魔女が誕生したのだ。
故にまいちゃんは西洋と東洋を繋ぐ次世代の魔女なのだ。
そう、おばあちゃんは思ったのではないだろうか。
まいちゃんは、きっと愛に満ちた幸せな人生を歩むんでしょう。
なお、本書には、その後のまいちゃんの物語「渡りの一日」が併録されている。こちらも良かったよ。
まいちゃんはきっと素敵な東の魔女になるのでしょう。
ところで、何ゆえ魔女?
魔女の語源は諸説あるので何とも言えないけども、キリスト教から迫害されるよりもっと以前のリアルな魔女は、自然と共に生きて、薬草で治療したり豊穣祈願するシャーマンのような存在だったんじゃないかな。
おばあちゃんが魔女と呼ばれた理由は物語の中に書いてある。
でも魔女の修行は透視能力や予知能力を鍛え上げるものではなかったし、まいちゃんにその特殊能力があるかどうかも問題ではなかった。
それよりも豊かな精神性を養うことを本懐にしていたようだ。
魔女と呼ばれ、魔女として生きてきたおばあちゃんは自身の経験から、リアルな魔女の生き方には幸福に暮らせるヒントがあったと考えていた。
そしてまいちゃんの心を受けとめ癒しながら、幸せに生きていくための道標になってあげたかったんじゃないでしょうか。
物語では、おばあちゃんとの暮らし自体が、魔女の修行だったわけだけど、モットーとしていたのが「何でも自分で決めること」。
自然との繋がりを知り、自分の外の世界を見つめ、自己を見つめ、自分の心が本当に望んでいることを知り、どんなことにチャレンジしても良い自由があることを知る。それを表現していく経験をまいちゃんに積んで欲しかったのだろう。
ジャムを作ったりサンドイッチ作ったり、一つひとつは些細な成功体験だけども、小さな幸せを積み重ねていく大切さも知って欲しかったのだろう。
近所の人達との温度差や価値観の違いを知って、感じ、考えることも、まいちゃんには必要な経験だと思ったのだろう。
それらを魔女の修行と位置づけて、共に暮らす時間の全てが、まいちゃんが強くしなやかに生きていけるヒントになりますように、とおばあちゃんは願っていたのだろう。
まとめ
今回は梨木香歩さんのベストセラー『西の魔女が死んだ』の感想でした。
優しさと温かさ、そして切なさが詰まった名作物語でした。
中高生時代に、この作品に出会えた人は幸せだなぁ。
作者の梨木香歩さんは、きっと心優しい人なのだろう。
いつか美味しい紅茶を飲みながら、ゆったりとした気分で再読したいと思える物語でした。
大人も感動できる名作物語なので、学生さんだけでなく、お子さんやお孫さんがいらっしゃる方も、生きづらさを感じている大人にも是非読んで欲しい一冊でした。
監督:長崎俊一さん、まいちゃん役:高橋真悠さん、おばあちゃん役:サチ・パーカーさん。
おばあちゃん役のサチ・パーカーさんて、ニューエイジ系スピリチュアル界隈の大御所シャーリー・マクレーンさんの娘だそうです。スピリチュアルに関心をお持ちの方なら、興味をそそられるキャスティングかもしれませんね。
『西の魔女が死んだ』の記事は、こちらでも紹介しています。