フィリップ・K・ディックさんの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は、映画『ブレードランナー』の原作としても知られる哲学的なSF小説。傑作です。
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』書籍情報
タイトル:アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
作 者:フィリップ・K・ディック(Philip Kindred Dick)
SF作家。アメリカ出身。1928年〜1982年。
ヒューゴー賞、英国SF協会賞、ジョン・W・キャンベル記念賞などを受賞。
本作は『ブレードランナー』というタイトルで映画化されている。他にも『トータル・リコール』や『マイノリティー・リポート』など多くの作品が映画化されている。
簡単なあらすじ
本物の動物を飼うことを夢見ている刑事リック・デッカードが、火星から逃亡してきた懸賞金付きアンドロイドを処理する仕事を引き受ける物語。
読書難易度:
やや難解。哲学的ですし、ちょっと分かりにくいところもあるが、哲学書やハードSFのような難しさはない。
派手なアクションシーンが無いので、エンタメ系小説がお好きの方ですと、ちょっと退屈するかもしれません。
あと人間の共感性をテーマにしているが、主人公がクズなのであまり共感できないかもしれない。でも傑作ですよ!ぜひ哲学的(?)クズっぷりも楽しんで欲しい。
感想・レビュー
世界観はディストピアで、雰囲気は退廃的。核兵器を使用した第三次世界大戦後のサンフランシスコが舞台。
放射能汚染、酸性雨、壊滅的な打撃を受けた自然。多くの生命を奪い、地球を破壊するだけ破壊し尽くした人類は、高性能アンドロイドを連れて他の惑星へと移住を始めていた。
移住できない人々と地球残留希望者達は、荒廃した地球で静かな絶望と孤独の中で生きている。
人類が最悪な未来を迎えてしまった世界設定ですね。
その地球では、生物は法によって手厚く保護され、人間は本物の生物を飼うことが、社会的ステータスになっている。本物を購入するだけの経済力がない人は、本物そっくりの電気ペットを買って見栄を張る。
本物そっくりに作られた人造生物の頂点は有機アンドロイド。とはいえ人間の奴隷のような位置付けだった。
そして人間に反抗し逃亡したアンドロイドは、機械のバグ・不良品と見なされ、発見次第、廃棄処分されていた。
人間達は情緒オルガンで感情コントロールしているのに、人間とアンドロイドの境界線は共感力にあるという皮肉がいい味だしている。
【POINT1】リック・デッカード
さて主人公の刑事リック・デッカード。
いやぁ、クズだったよー😆
アンドロイドに感情移入した、共感した、同情した、人間とアンドロイドの境界線が曖昧に感じたとか善人ぶった臭いことをグダグダ悩でいたが、実は女性型アンドロイド達にムラムラしていたスケベ(エロい描写は無い)。
おまけに優柔不断、狡い、がめつい、根っこが薄情。
世界を救う勧善懲悪ものではないし、クズゆえに哲学的SFの傑作になったので、こういうキャラも有りだなと思った。
世界観が退廃的なので、ひょっとしたらディックさん的にはハードボイルドな男をイメージしていたのかもしれんが(笑)。
【POINT2】イジドア
知的障がい者のため、社会はもとより権力サイドからも差別を受けている。でも心はピュアピュアで優しい。
社会的にはデッカードが光でイジドアは影、でも心は逆といった感じですね。二人の対比もこの作品の面白さだと思う。
【POINT3】アンドロイド達
自我を有したアンドロイド。
日本でいうところの付喪神みたいなもんですかね。
しかし自分の意志で生きる権利が無いアンドロイド。人間と同じ姿形をしながら、奴隷か廃棄処分かという二択しか無い彼らに同情してしまう。
感情持ちアンドロイド達は共感性は乏しくとも、自己の中にかけがえのない《私》と《生命》を感じたから、幸せを求めて逃亡したんでしょうに。
《生》を渇望していたから潜伏して、或いは社会に溶け込んで暮らしていたんでしょうに。
人間社会が《私》のことを受け入れて欲しくて、人権を尊重して欲しくて、マーサー教を嫌悪していたんでしょうに。
どれもが「生きたい!」というアンドロイド達の自我の叫びやん。
だって意識と生命は繋がっているはずですので。
本物と偽物
物語では、人間や動物を本物、人工的に作られた存在を偽物として対比している。
デッカードは、女性型アンドロイドのプリスとレイチェルの個としての存在を否定した。要は、量産品と見なしたわけだ。
けど、プリスもかつてはレイチェルと呼ばれていたが、自らプリスと名乗っている。これって《私》はただ一人の《私》である。という意思表示じゃないかねぇ。
アンドロイドの精神活動が、量産の人工物由来であったとしても、その心は個々のアンドロイドの中で勝手に発生して、それぞれがそれぞれの自己を確立しているんじゃないかな。
そしてどんな《私》になるかは、環境や経験によって多少変わるんじゃない?ならば心は、オリジナルでありオンリーワンになっていくんでしょう。
そういう変化が生じたアンドロイドは、偽物とか本物とか二元論的には括れない気がするんだが…
まとめ
今回は、フィリップ・K・ディックさんの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の感想でした。
映画『ブレードランナー』って、一番好きな映画なんですよね。それで原作の『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』もずいぶん前に手にしたんです。
で、記事を書こうと思って再読。映画とはストーリーとか色々違うんですけど、コレはコレで良い作品なんですよ。
SF好きの方、哲学的作品に興味をお持ちの方、退廃的世界観がお好きな方はぜひ読んでみてくださいませ😊
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の記事は、全五回シリーズを予定しております。第二回〜第五回については、自分なりに解釈してみた内容を記事にしています。