ジェイムズ・ P・ホーガンのSF小説・巨人たちの星シリーズより『ガニメデの優しい巨人』『巨人たちの星』『内なる宇宙』『ミネルヴァ計画』の感想です。
前置き
前もって言っておきます。シリーズ後半は挫折しました😅その軌跡を、私の読書記録としてここに記しておきます。
ホーガンさんのファンの方にはアレな内容かもしれませんが、これはあくまでも一読者としての正直な感想です。好みは人それぞれとご理解くださるとありがたいです。
なお、最高に面白かった『巨人たちの星』シリーズ第一部『星を継ぐもの』の感想・レビューはこちら>>
ガニメデの優しい巨人
『巨人たちの星』シリーズ第二部です。
簡単なあらすじ
浦島太郎な状況の異星人・心優しいガニメアンとのファーストコンタクト。
木星最大の衛星ガニメデで2500万年前の宇宙船が発見される。そして宇宙船―シャピアロン号に乗って、生きているガニメデ人がガニメデに飛来した。
感想・レビュー
読了できました。
ミステリー要素は前作よりも控えめ。
科学的な話は勿論凄いんだけど、人類の誕生という壮大な歴史、地球人とガニメアン(ガニメデ人)の邂逅、ガニメアンの心情。
そして心優しいガニメアンとの交流と別れが描かれていて、これが心に染みてくるんだな。
しかしどことなくガニメアンが都合良すぎるキャラな気がしなくもないし、第一部の『星を継ぐもの』ほどのインパクトもなかった。
些細な疑問
ところで、なんでガニメアンなんだろう?
Ganymede(ガニメデ)人なんだからGanymedean、つまりガニメディアンになるのでは?
例えばアフリカのCape Verde(カーボヴェルデ共和国)の、カーボヴェルデ人だってCape Verdean(カーボヴェルディアン)でしょ。
ほんと些細な事なんですけど気になっちゃて「ガニメアン」という文字を見るたびに「なんでガニメディアンじゃないの?」って疑問が脳内をリフレイン。
読書にあまり集中できませんでした💧
巨人たちの星
『巨人たちの星』シリーズ第三部です。本当は五部作なんですが、物語は一旦、三部作で完結します。
簡単なあらすじ
前作でガニメアンと邂逅を果たしたが、実はそれより以前から何者かによって地球は監視されていた。勧善懲悪物語。
感想・レビュー
前二作の謎が解き明かされて、綺麗に終わっているのは良いと思う。
しかし、これは賛否両論あるんじゃないかなぁ。
ただでさえ科学の話ってムズいのに、展開が目まぐるしくて、新しい登場人物もわんさか増えて更にややこしくなっていた。
政治、社会、戦争、善悪二元論、勧善懲悪、オカルト的な陰謀論、スパイ、信仰、ファンタジー、エンターテインメント…、何でもありのSFになっていた。
ハードSFとは呼べない。陳腐な勧善懲悪、幼稚なジェヴレン人、ご都合主義満載のストーリー。
ホーガンさんの科学知識に目が眩むほど科学を理解できない読者、およびハードSFを期待してこの本を手にした読者は、素晴らしくB級な香りを堪能できちゃうな。
故に「読まなきゃよかった」と一蹴されても仕方あるまい。
というわけで、私の期待からも興味からも逸れてしまった感が否めない。そのため読書のテンションがダダ下がりになってしまって、途中から流し読み・斜め読みでなんとか読み切った。
でも、読まなきゃよかった。
残念な点と反論
科学信仰主義者と言いたくなるような盲信的思考と、英米人至上主義者的な選民意識。
きっと己の民族と国、己の科学知識をこよなく愛し、誇りに思っていたのだろうが。なんだかなー。
今の私は平和ボケを満喫しているが…
昔、私が海外にいた頃、正義でお馴染みの国と、信心深さが有名な方々のゴタゴタのとばっちりを被った。大爆発だった。
現場から10kmくらい離れたところでも地面が揺れて空から降ってきた瓦礫で家が破損したり、30Kmくらい離れた所でも爆発音が聞こえたレベル。
当時、世界中でニュースになった。
ちなみに私は緊急避難用の飛行機に乗りそこねたので現地に残ったが、幸い無事だった。
ただし日本では報道されないような生々しい地獄絵図を見た。人間の恐ろしさを心底実感した。人間は本当に愚かだと思った。
一生忘れない。
なので読書テンションは上がらないくせに、あの地獄絵図を思い出してしまって、この本に強く反応する自分がいるんだなぁ。
一番反応したのは、本書のある一文。呆れてしまった。
特に広島県、長崎県方面の方や、語感に優れた方には不快かもしれません。滅多にいないと思うが、私のような体験をされた方も。
つまりこれのこと⤵
終戦が1945年、この原書発行が1981年。36年しか経っていない。あの暗黒時代を生き抜いた人々、被害者、遺族だって世界中に大勢いた時代の本やんか。どうかしてるよ。
不都合な史実を無かったことにしたり、実在した歴史上の人物の実名を出して脚色したりして、俺達だけが正義だ!風味を演出しての勧善懲悪。
しかも宗教名やその人物名といった、ハイリスクな名は一切出さないくせに、そんなことを書くから尚更印象が悪い。
デリケートな史実や実名を書くな、とは言わんが、作品がフィクションでも、ホーガンさんに罪は無くとも、戦勝国の人であってももっと慎重であるべきだった。
歴史を見ての通り、例えば当時はそれぞれに都合があり、それぞれの正義があって、残念ながらそれらが人道よりも優先されてしまったり。
故に正義の反対はもう一つの正義で、逆に言えば悪を退治する者達ももう一つの悪だったり。
例えば社会的罪は計り知れないほど重いが、窮地に追い込まれた自国を守りたかった、という動機部分は罪とは言いにくいとか。
例えばもっと前から怨みの連鎖の中にいて、平和的な決着点も妥協点も見えなかったり。
もうちょっと言うと、もしもベルサイユ条約に人道的な配慮が有ったなら、あの独裁者は誕生しなかったんでない?
もしも愛の総本山の親分が「迫害はNOですよ」と人道的な返事をしていたなら、あの歴史的大迫害は起こせなかったんでない?
あれもこれも残念な選択だったとしても、その背景には各国の様々な事情が複雑に絡み合っていたんだわ。
あいつだけ悪とか、自分達だけ正義とか、地球はそんな単純じゃないの!
信仰否定・科学礼賛の反論
宗教は総じて人類を分断して争いを生んできたし、争いだすと妥協点がないから困ったもんだと思うけどね。
しかし宗教の道徳的部分や芸術は、人類の財産という側面も有るのだ。これは科学の教育では代替えできないよ。
そして宗教問題(カ◯トは別)の原因は、信仰ではなくて、信者なんだよな。
だってどんなありがたい経典や聖典だろうが、興味も信心も無い人にはただのテキストだもん。
勿論、科学も人類の財産だ。でもホーガンさんのようなセンスマインドも、咀嚼・分断・争いを生むんじゃないかねぇ?
《狂気》ってやつは、宗教だろうが、正義だろうが、盲信するあまり排他的になった狭量な心に宿るんだと思うよ。盲信って、救いに繋がらないという矛盾を孕んでいるんだよ。
また、《正義》ってやつは、秘匿したい何かの隠蔽アイテムとして便利なんだ。
ホーガンさんのように問題を善悪二元論で曲解してみせれば、人々の思考を吟味から遠ざけることができるからね。
でも己の良心や正義も歪むんだよな。
日本限定の話
失礼だけどこの方って、ノーベル文学賞もネビュラ賞もヒューゴー賞もハリウッド映画化も無縁。海外では母国でさえほぼ無名。
『星を継ぐもの』がバカ売れした国も、SF作家の巨匠とまで持ち上げて高く評価してくれた国も、日本だけやん。
自分の作品を愛してくれる国の読者をガッカリさせちゃイカンよな。我々は戦◯被爆国の人間なんだよな。
内なる宇宙
『巨人たちの星』シリーズ第四部です。ストーリー自体は番外編的なもの。
簡単なあらすじ
第三部『巨人たちの星』で登場したジェヴレン人達の隠された世界に立ち入る話。第三部の後日譚ですね。
感想・レビュー
途中で挫折しちゃいました。
実は前作で既に私の読書心はポッキリ折れていましたが、でも図書館でまとめて借りちゃったので、一応目を通した。
今回は宇宙とコンピュータの世界が舞台と言って差し支えないと思う。初期の純粋なハードSFらしさから増々遠のいて、社会構造や精神的な話がかなり増えていた。
ミステリーやスパイ小説的要素も強い。
やっぱりホーガンさんの作品には、第一部のような、サイエンスからのアプローチによるセンス・オブ・ワンダーしか求めていなかった自分がいた。
なので残念ながら読書のテンションもペースも一向に上がらないので、読了は無理と判断して『ミネルヴァ計画』に手を出した。
ということで、次。
ミネルヴァ計画
『巨人たちの星』シリーズ第五部です。本当の最終作。米国では2005年に出版されている。約20年の時を経て昨年日本語版が出版された。
簡単なあらすじ
今回は過去に戻って、運命を変えて、より良い未来を作り出そうとする話。
感想・レビュー
今回は、コンピュータ内での知性やマルチバース理論も盛り込まれていて、よりファンタジックになった。社会的な議論も、絶対悪を阻止する正義という分かりやすい構図も、エンターテイメント性も健在。
もはやSFですらない気がした。どっぷりファンタジーだと思う。
ダラダラと文字を追っかけているだけで、もぅ感情が動かなかった。ということで、また挫折💧
疑問点
挫折のせいなのか私の読解力の問題か…
マルチバースで、一つのミネルヴァの過去を弄って、そのミネルヴァだけを救おうと思ったのは何故なのか、さっぱり分からなかった。
マルチバースなんだから、色んなミネルヴァが沢山あるじゃん。
それと「自分達で明るい未来を選択していこうぜ!」から「困ったら過去を弄ればいいじゃん!」に路線変更したのは何故?路線変更多いなー💧
まとめ
今回はジェイムズ・ P・ホーガンさんの『巨人たちの星』シリーズ、第二部から第五部のレビューでした。
やはりシリーズものって、段々イマイチになるパターンが多いから、そうゆう予想はしてたけど、でも予想以上だった💧
段々読むのが苦行になってシリーズ後半は挫折…
ホーガンさんの発想力と知識量はすごいとは思う。
しかしシリーズ作品って、シリーズ通して同一嗜好の読者がダーゲットでしょう?なのに作品に一貫性がなかったり、日本の史実を無かったことにしたり色々…
これじゃあプロの小説家なのに読者から目をそむけている、と思われてもしょうがないね。
おかしな人だなー、と思ったら…
リアルでも、AIDSは医薬品が原因とか、ホロコーストは捏造とか言い出したり。そしてトンデモ科学者の代弁者と評される人だった。
欧米社会でも受け入れにくい主張をする人だったのね…
ひょっとして《事実・現実》と、己の《理想・空想》の境界が曖昧な人だったのかも…、それである意味不器用な作家だったのかも…、って、ちょっと憐れに思ってしまった。
ということで、個人的には、第一部の『星を継ぐもの』だけは良かった。コレならオススメしたい。
念のため言っておくけど、他の作品も駄作ではない、だろう。自分の嗜好とマッチする人にとっては良作、だろう。読破できなかったので「だろう」としか言えませんが。
『巨人たちの星』シリーズの記事は、こちらでも紹介しています。