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【第三回・深読み】山月記/中島敦|暁の残月と虎の嘷と友情と

1.09.2025

文学1

歩きながらこちらを見ている虎。青い画像

【第二回・深読み】山月記/中島敦|李徴の心と漢詩の心の続きです。私なりに『山月記』を読み解いて記事にしています。こういう解釈をする読者もいるんだな、程度に考えてもらえれば幸いです。

馬と羊のエピソードがカットされた理由

『人虎伝』では、袁傪が気を利かせて「馬(餌)あげようか?」と聞くと、李徴が「馬より羊ちょうだい♡」とおねだりするエピソードがある。
しかし『山月記』ではそこがザックリとカットされている。その理由を読み解いてみた。

まず人喰い虎の李徴は最初、袁傪とは知らず喰う気満々=腹ペコだった。しかし袁傪を見て人の心に戻り、友として、人としての会話を望んだ。
なのに虎用の餌クレクレなんて言えないよね(笑)。ましてや李徴は誇り高いタイプなので、惨めったらしくおねだりするのはキャラ的にもNGでしょう。

一方の袁傪は、友の性格を理解・尊重していたから、馬(餌)を与えようなんて、プライドを踏みにじる憐れみをかけるはずがない。ぶっちゃけ餌付けって行為は、立場の強い人間が、自分より立場が弱い動物に対してすることですもんね。

そんな理由から中島敦さんは、馬と羊のエピソードをカットしたんでしょう。簡単に察しがつきますね。
わざわざここに書くほどでもなかったかな?

別れの時

李徴は袁傪に心情と経緯を語り、己の進む道を語って決意表明し、遺言と思われる願いを託す。そこでようやく虎になった理由を見出した。
李徴に真実が分かるはずもなく、ただ自分を納得させるための理由でしかないのだけれど。

理不尽があふれた世界、叶わなかった夢、叶わぬ願い。
かつて心に抱えていた愚かしさと弱さに対する後悔。
望みもしていないのに、虎として生きなければならなくなった運命に対する憤り。
二度と再会できぬであろう家族への想い。
袁傪との友情の絆。かつて人であったことの大切な証だ。
それら全ての記憶が、人としての心もろとも消えつつあることへの不安と悲しみ。
もはや今の李徴に自己顕示欲は無かった。

そして暁の中で光を失った残月と、友を想う心、人間・李徴が漢詩に込めた決意が交錯していく。

ネタバレ無しでいきますけど、この先は胸熱シーンが待っています(実は、一文だけ「え?」って思ったところが・・・(笑)。
とはいえ大抵の方は学校で習っているでしょうから、多分ご存知だとは思いますが。😊

嘷でありながら美しく、
儚くなった残月よりも美しく、
獣の身でありながらも、人として最も美しく輝いた瞬間だ。
消えゆく人の珠(心 or 魂)の最後の輝きかもしれない。

あとがき

今回は中島敦さんの短編小説『山月記』を、自分なりに読み解いてみました。

山月記』という趣のあるタイトル、気高い李徴と思いやりがある袁傪のキャラ、名作の所以である哀と友情と風情。これらをリスペクトしながら解釈してみたつもりなんですが、どうでしょうか?😊

これを書きながら、ふとこんなことを思った。

珠(心 or 魂)あっての肉体なのか、
肉体あっての珠(心 or 魂)なのか…

獣の道を歩む李徴の人生と、
人の道を歩む袁傪の人生。

そこになんの貴賤があろうか。

…とても美しい物語だった。

Thank you!
では、またね😊


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