中島敦さんの短編小説『山月記』は、中国の古典である清朝の説話集『唐人説薈』の『人虎伝』を元にした二次創作となります。現在『山月記』は、日本の国民教材として高校の教科書に載っている有名な名作です。
『山月記』書籍情報
タイトル:山月記
作 者:中島敦(なかじまあつし)
小説家。東京都出身。1909ねん〜1942年。
教員勤務しながら小説の執筆を続け、パラオ南洋庁の官吏を経て専業の作家になるが、持病の喘息悪化により33歳の若さで急逝。わずか二編の中編と十数編の短編しか残せなかった。
しかし『光と風と夢』は芥川賞候補になり、死後に出版された『中島敦全集 全三巻』は毎日出版文化賞を受賞。
簡単なあらすじ
舞台はおよそ1300年前の中国。
秀才だったが、詩人になりたいという夢に敗れて虎になってしまった主人公の男・李徴(りちょう)が、旧友の袁傪(えんさん)と再会し、己の数奇な運命を語る変身譚。
読書難易度:
漢文が含まれているので少しとっつき難い印象があるかもしれませんが、わりと読みやすい作品だと思います。
感想・レビュー
誰もがご存知の名作ですね。多くの日本人が、この物語を読んで共感したんじゃないでしょうか。私も好きなんですよ、この物語。
実は元ネタの『人虎伝』には魅力を感じないのだけれど、『山月記』には美学があって心惹かれるものがある。
哀がある李徴のキャラにも好感がもてる。彼の心を深く掘り下げているところもいいね。とても共感できた。
『山月記』という趣のある題名も素敵だと思う✨
メインの登場人物はたった2人・夜明けから早朝にかけての短い時間。
なのに内容は深く濃い。理不尽があふれた世界、押しつけたれた運命、誰もが心に抱えている自尊心と羞恥心という普遍的テーマ、教訓的な要素、憤りと悲しみ、叶わなかった夢、友情もある。
よくこんだけ盛り込めたもんだと感心してしまう。しかも名作に仕上げてしまう中島敦さんって凄い作家だと思った。
【POINT1】月
『山月記』には、何度も月の描写が出てくる。
夜明けの空に浮かぶ残月で、時間の流れを表現している。同時に月が李徴の心のメタファーになっていた。趣があって素敵だった。
【POINT2】名セリフ
この作品で最も有名な一文といえばコレですね。
臆病な自尊心と、尊大な羞恥心
引用:山月記(中島敦)
心にぶっ刺さるカッコいい表現ですよね。「あぁ、李徴は自分だ…💧」と、誰もが感じてしまう名セリフじゃないでしょうか。
少し説明すると、
臆病な自尊心とは
本当の自分は臆病であるがゆえに、己の自尊心が誰かに、何かに傷つけられることを恐れていた。己を省みることも無く、ただただ臆病な自分を守ることばかり考えていた。
高い自尊心。その原動力は、自分の内側にある臆病な心だったのだ。
尊大な羞恥心とは
本当の自分は尊大であるがゆえに、常に周囲から高く評価される人物でありたかった。己を省みることも無く、ただただ自分のみっともなさを隠すことばかり考えていた。
強い羞恥心。その原動力は、自分の内側にある尊大な心だったのだ。
つまり
立派な人物でありたいと望むあまり、過剰なまでに虚勢をはって、見栄もはって生きてきたわけですね。
しかし作用と表出の対極にはちっぽけな自分がいて、人間・李徴が守りたかった心があり、隠したかった心があったわけですね。深いなー👏
心の中の何かが欠けていくと、逆に満ちてくるものがある。
人の心って月のようだね。
素直に己を省みて、自分の中にある醜さを認識できたなら、何かが残っていたからでしょう。それが自分の汚れていない部分かもしれないね。
まとめ
今回は中島敦さんの短編小説『山月記』のレビューでした。
かつて学校で教えられたこの物語の解釈は、今でもなんとなく覚えている。でも大人になって再読して、自分で解釈してみたら色々と新しい発見があった。
そしてこの作品がもっと好きになった。同じ作品なのに、以前よりももっと深く美しい物語に思えましたよ。
もしよかったら、あなたももう一度読んでみませんか?
『山月記』の記事は、全三回シリーズになっています。第二回と第三回の記事については、自分なりに解釈したものを、備忘録を兼ねて記事にしました。
物語の解釈は十人十色。学校で習った解釈とは違っているところもあります。なので、こういう解釈をした読者もいるんだな、程度に考えてもらえれば幸いです😊
『山月記』の記事は、こちらでも紹介しています。